大地主と大魔女の娘


 勝手口の石段に腰掛け、月を見上げていた横顔がこちらを見た。

 驚いたのだろう。

 手にしていた杖が転がった。

 まさか主人たる人物が、このような裏手に来るとは思わなかったのだろう。

 そう思い込み、すっかり油断していたに違いない。

 カルヴィナは明らかに動揺していた。

 それは俺も一緒だった。

 まさかこんな時刻に、こんな所に居るとは思わないではないか。


 しかも薄い夜着に、ショールを羽織っただけという格好に眉をひそめた。

 この娘に自衛心や警戒心というものは無いのか。


 思わず問い詰めるような調子で、言葉が滑り出る。


「何をしている?」

 カルヴィナの部屋は二階の奥へと移動させたはずだった。


 ここまで来るのには長い回廊を渡り、階段を下りねばならない。


 そんな距離も面倒にも彼女は怯まないようだ。

 やはり杖も取り上げるべきか。

「あの、月があんまりにも綺麗だったものですから」

「部屋からでも見えるだろう?」

「すみません。お部屋だと木に遮られてしまって……月の光を浴びたかったのです」

「何故、そんな必要がある」

「魔女ですから」

「魔女には必要なのか」

「はい。太陽と同じくらいに必要な光です」


 説明しながら、カルヴィナはさり気なくショールを頭から被り直してしまった。

 それこそ見事な満月が、雲に隠されてしまったかのような感覚を覚えた。

 その艶めく髪と肌を隠されてしまったのだ。


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