大地主と大魔女の娘


 ここでこうやって問答していても、ただカルヴィナの身体が冷えてしまうだけだ。

 そう判断した。解っている。

 だからといって引く気にもなれない。

 打ち負かされている気がしないでもないが、ここは踏ん張りどころではなかろうか。

 だからしつこく食い下がる。


「カルヴィナ、おまえが謝る事は無い。俺が悪かったのだ」

「地主様に、ご迷惑を、お掛けしているのは私です。ですから、どうか、どうか、そのような事を仰らないで下さいませ」


 お互い謝っても相手からは受け入れられないでいる。

 謝らないで欲しい。

 それはいくら謝っても、許す気は無いのだという拒絶の表れではなかろうか。


 カルヴィナは身体を小さく丸め縮まって、俺が立ち去るのを待っているように見えた。

 月の光を背に浴びて立つせいで、俺の影がカルヴィナを覆い隠す。

 俺はといえばただぼんやりと立ちすくみ、これは何と小さくか弱い生きものかと思った。

 そのくせ大の男を振り回す、とんでもない魔性の女だ。だからこそ魔女なのかもしれない。

 今だってそうだ。


「……わかった。カルヴィナ、おまえがそのように思うのならば俺はもう謝らない」

「っ、はい」


 自分の意思が伝わったと安心したのか、カルヴィナの声はいくらか弾んだ。

 こくこくと首を縦に振る。

 その拍子にショールが滑り落ちれば良いのにと願ったが、それはならなかった。

 忌々しく思う。

 何に対してかは、もはや言葉にならない。

 そんな感情だけが胸中を渦巻いて、鎌首をもたげ始めている。


「俺に迷惑を掛けるのを心苦しく思うのだな?」

「はい」

「だったら、俺の許可無く出歩くな」

「は……っ、はい」

「戻るぞ」

「はい、戻ります。地主様はどうぞ、先に行かれて下さいませ」


< 113 / 499 >

この作品をシェア

pagetop