大地主と大魔女の娘
ここでこうやって問答していても、ただカルヴィナの身体が冷えてしまうだけだ。
そう判断した。解っている。
だからといって引く気にもなれない。
打ち負かされている気がしないでもないが、ここは踏ん張りどころではなかろうか。
だからしつこく食い下がる。
「カルヴィナ、おまえが謝る事は無い。俺が悪かったのだ」
「地主様に、ご迷惑を、お掛けしているのは私です。ですから、どうか、どうか、そのような事を仰らないで下さいませ」
お互い謝っても相手からは受け入れられないでいる。
謝らないで欲しい。
それはいくら謝っても、許す気は無いのだという拒絶の表れではなかろうか。
カルヴィナは身体を小さく丸め縮まって、俺が立ち去るのを待っているように見えた。
月の光を背に浴びて立つせいで、俺の影がカルヴィナを覆い隠す。
俺はといえばただぼんやりと立ちすくみ、これは何と小さくか弱い生きものかと思った。
そのくせ大の男を振り回す、とんでもない魔性の女だ。だからこそ魔女なのかもしれない。
今だってそうだ。
「……わかった。カルヴィナ、おまえがそのように思うのならば俺はもう謝らない」
「っ、はい」
自分の意思が伝わったと安心したのか、カルヴィナの声はいくらか弾んだ。
こくこくと首を縦に振る。
その拍子にショールが滑り落ちれば良いのにと願ったが、それはならなかった。
忌々しく思う。
何に対してかは、もはや言葉にならない。
そんな感情だけが胸中を渦巻いて、鎌首をもたげ始めている。
「俺に迷惑を掛けるのを心苦しく思うのだな?」
「はい」
「だったら、俺の許可無く出歩くな」
「は……っ、はい」
「戻るぞ」
「はい、戻ります。地主様はどうぞ、先に行かれて下さいませ」