大地主と大魔女の娘
「ちゃんと俺の首に掴まれ」
「はい」
大人しく促がされるままに、おずおずと細い腕が首筋に回された。
満足を覚えながら、その背を支えるようにしてやる。
否が応でも密着し、カルヴィナの柔らかな身体が触れる。
その身体が小刻みに震えていた。
「狼が怖いのか?」
「犬が、怖いです」
「狼よりもか?」
「……。」
カルヴィナは言葉もないまま頷いた。
よほど犬が怖いらしい。
そういえば連れ帰った時も、猟犬たちに怯えた様子だったと思い出す。
「大丈夫だ。あいつらは人を噛んだりしない」
「でも吠えます」
「犬は吠えるものだろう」
愛犬家としては捨て置けない意見だった。
だからついムキになってしまったようだと気が付く。
館の外にこれ以上長居は無用のはずだった。
ゆっくりとカルヴィナの部屋へと向かう。
館は静まり返っており、深夜独特の気配がした。
慎重に急いだ。
これ以上人気の無い所に居たら、魔女の娘を間違いなく狼の餌食にしてしまうだろうから。