大地主と大魔女の娘


 さっきまで神経が研ぎ澄まされて、冴え渡っていたというのに妙な具合だった。

 地主様が、先程とは違った雰囲気になられたせいかもしれない。

 苛立つ彼は苦手だけれども、普段の地主様の本質は驚くほど穏やかな事にも気が付いている。


 それが私の敬愛してやまない「森の彼」に似ていると気が付いた時は驚いてしまった。

 そう。

 彼はあの悠々と出で立つ「彼」に似ている。

 おおらかであたたかく、それでいて威厳を持っていて近寄り難い「彼」と。

 地主様に促がされるままに回した腕が、痺れてきてしまった。

 そこまでも彼に似ている。

 いつも抱きつくと私の腕では回り切らなくて、だんだん疲れてしまうのだ。


 私の腕が滑り落ち、代わりに彼の襟元を握り締めたが何も言われなかった。


 ただ背に回されていた彼の腕が、よりしっかりと抱え直してくれた気がした。

 いくらか地主様に身体が押し付けられる。


 彼からは冷たく澄んだ夜風の匂いがした。


 最近こうやって抱え上げられてしまう事が多い。

 今日でもう何度目だろう?

 そんな風に考えて、そっとその横顔を窺った。

 引き締まった端正な横顔を、月の光が照らしている。


 数日前に殴られた腫れはどこにも見当たらない。
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