大地主と大魔女の娘


 この娘の心は森にある。

 だが、いくら泣かれても帰す気は起きない。

 むしろ、この泣き方の方がマシだと思う。

 そうだ。はるかにましだ。

 あんなただ涙を零すだけの、何も写しはしない瞳をさせる事などガマンならなかった。

 それならば俺を見て、しっかりと睨みすえて泣かれる方がずっといい。

 闇など覗かせたまま泣かれたくなかった。



 朝からも油断無くショールを羽織るようになった娘に舌打ちする。もちろん、内心でだ。

 そんなあからさまなまでに苛立ちを表に出したら最後、カルヴィナは……。

 考えたくも無い事態になるだろう。

 その黒髪を見たいと願っている自分がいる。


 少し前までは背を流れるほどの豊かさであった髪も、今は娘の頬を隠すのがやっとという長さだ。

 艶やかさを取り戻し始めていた黒髪に、指を絡ませておけば良かった。

 もっともそう簡単に触れさせてはくれない所か、目に触れるのすら避けられているが。

 カルヴィナは、眠る時もショールを手放さないという。



 そう責めるように報告された。

 そうなる事を予測していた。

 カルヴィナに罪はない。


 年頃の娘の自尊心を踏みにじった俺にある。

 だからこそ「もっと堂々としてくれ」と、頭を下げたが受け入れられなかったのだ。


 俺にどうしろというのか。

 やりきれない思いに、胸を占拠されている。

 そこに追い打ちを掛けてくれるのが、この魔女の娘だった。


「おはようございます、地主様」

 羽織っていただけのショールを頭から被り直されてから、深々と頭を下げられた。

「カルヴィナ」

「はい」

「危ないだろう。あまり身を乗り出さないように」

「はい」

「来なさい」

「はい」

 促がすと素直に頷かれた。

 だが実際はわずかにバルコニーの手すりから離れただけだった。


「こちらに来い」

「ぅ……はい」


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