大地主と大魔女の娘


 そんなに俺の側に来るのが嫌なのか。

 そう考えたから、命ずる声に苛立ちが含まれる。

 カルヴィナは諦めたようにひとつ小さくため息をついた。

 それがまた癪に触った。

 そろそろと壁に手を掛けながら、カルヴィナはその場にしゃがみ込む。


 何をする気かとその様子を見下ろしていた。


「お見苦しい失礼をお許しください、地主様」

 カルヴィナは膝を付き両手を床についた。


 そのまま床をはいずる様に身を進ませた。

 右脚だけが遅れて引き摺られる。

「!?」


 その様子にやっと気がつく。


 カルヴィナの手元に杖はなく、見渡した部屋の寝台に立て掛けてあった。

 慌ててカルヴィナに駆け寄り、その身を抱き上げた。

「悪かった。おまえの手元に杖がない事に気が付かなかった。許せ」

 いいえ、とカルヴィナは首を横に振った。

 俺の腕の中、居心地悪そうに身じろく。

 だが下ろしてやらない。


「ええと、それにまだ、着替えてもいなくて」


「侍女はどうした? 今日もリディアンナが来るはずだろう?」


「はい。先程いらっしゃいました。私に待つように仰って、そのままどこかに行かれてしまったのです」

「もう来たのか!? いつの間に」

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