大地主と大魔女の娘


「お嬢さま、お待たせしました……っと!? 地主様?」

「きゃあ! 叔父様、カルヴィナはまだ着替えてもいないんですのよ!」

 ぱたぱたと軽快な足音が聞こえたと思ったら、すぐに明るい声が飛び込んできた。

 リディと衣服らしき物を抱えた侍女である。


「リディ。俺に挨拶もなくこんなに早くから、どういうつもりだ?」

「カルヴィナに色々着てもらおうと思って、待ちきれなかっただけですわ。叔父様もまだお仕度がお済みで無いでしょうからと考えて、カルヴィナと一緒にご挨拶に窺うつもりでしたのよ。ねぇ、カルヴィナ?」

「……はい」

 抱えたままのカルヴィナの瞳を覗く。

 落ち着かなさと心許無さが表情にも表れていた。

 明らかに何か隠していると思われる。


 もとより、カルヴィナに腹芸は無理な話だ。

 対するリディアンナはといえば、何事も無かったように衣装を並べて見せる。

 侍女も従順に頭を下げて見せ、俺の前にある寝台に抱えていた衣装を広げて行く。


「ねえ、カルヴィナ。これだったらきっと動きやすいと思うわ。それでいて、かわいいでしょう?」


「ええ。きっとお似合いになりますわ。着てみられませんか?」


「はい。ありがとうございます」

「ですってよ、叔父様。下ろして差し上げて」

「……。」

「叔父様、カルヴィナはお着替えするのよ。出ていって下さらない?」


 無言で従うより他は無い。

 侍女は既に扉を開けて待っていた。


 この二人、姉に倣って俺を手玉に取るのは慣れたものである。


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