大地主と大魔女の娘


 そうだ。それ以外に何と言いようも無い。

 確信して言い切る。

 それで間違いないはずなのだが、当の地主様からはちっと小さく舌打ちされた。

 何故だろう。

「納め足りない税金分を働くように言われているので、私の雇い主様であります」と、ちゃんと説明しなければいけなかったのかもしれない。

 そう付け加えようと口を開きかけた時、地主様からも問い掛けられた。

「カルヴィナ。この男はオマエにとって何者なのだ?」

 さっきと同じ問い掛けだった。

「村の男の人です。地主様」

「そうか。それだけなのだな」

「はい」

「親しい訳では無いのだな」

「はい」

 こっくりと頷いて見せると、何故か頭を撫ぜられた。

「大地主サマとやら。アンタだって、俺と立ち位置はそう変わらない」

 腕組みしたままの彼が、鼻を鳴らして冷たく言い放つ。

 そしてもう一つの椅子に腰を下ろすと、自分の頭をワシワシと掻いた。

 そのまま、髪を前から後ろに撫で付けて整えてから、私と視線を合わせる。

「エイメ。おまえは知らないんだな。俺が大魔女に掛け合っていたことを」

「掛け合う?」

「そうだ。おまえを俺の嫁に欲しいと、ずっと掛け合っていた」

「え?」

 そんな話は今、初めて聞いた。

 それに彼とは、まともに言葉を交わさなくなって随分と立っている。


 話したと言っても他愛の無い内容だった筈で、しかもそれはお互いがまだ幼かった頃の事ではないだろうか?

 そういえば彼の名前すら知らない。

 子供だった頃、名前を尋ねられて答えられないのだと言ったら、ひどく彼の機嫌を損ねた覚えがある。


「だったら俺もオマエになど、名乗らない!」と。

 ふいに目線を外されてしまった。


 それは今朝方の地主様と同じような反応だった。


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