大地主と大魔女の娘


 責めるような口調になってしまったのが、自分でも説明が付かなかった。

 名乗れないなら、オレも名乗らないと宣告されていた事をありありと思い出した。

 そうやってお互い、そのまま名乗りあう事も無くやってきたではないか。

 付かず離れず。

 魔女の娘と村長の息子には、その距離が大事なのではないか。

 その領域に踏み込まれた事が、こんなにも不快だとは思わなかった。

 何故か裏切られたような気さえしてくる。


「私もあなたの名前を知らない。だからお互い様だと思う。これから先もそれでいいでしょう?」

「オレはオマエを責めている訳ではないんだ。それとも、名乗れば許してくれるのか?」


「そんな事を言い出すこと事態、信じられません。どうしてそんなこと、急に言い出すの?」


 今迄みたいに知らんフリをしていてくれたら、それで済む話なのに。


「どうしてって……。」


「私、あなたのこと何も知らない。お願いだからもう帰って」



 気が付けば一息にそう言い放っていた。


 まただ。


 語尾が震えて情けない事この上なかった。


 人馴れしていないせいか、いつも感情が高ぶると声が裏返ってしまう。



「帰ってよ!」

「エイメ……。」


 うろたえ切った声に名前を呼ばれた。


 弱り切った様子で何とも憐れだった。


 でも同情できない。


『オレの嫁にしたいと――。』

 おばあちゃんに、掛け合っていた? 

 いつの間に? ずっとって言った?

 ずっとってどれくらい前からの話?


 駄目だ。受け止めきれそうもない。

 何の話だろう。

 今、初めて耳にした。

 私は何も聞かされていない!

 信じられない気持ちがそのまま、口調と眼差しに現れてしまう。


 自分で言っておきながら、警戒心丸出しの冷たいものだった。


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