大地主と大魔女の娘
そこで痛いくらい近くにあった、眼差しとぶつかった。
深い濃紺の瞳が、何やら憐れなものを見たとでも言いたそうに揺らいで見える。
そこでやっと自分が、地主様に取り縋っていた事に気が付いた。
感情が高ぶりすぎて、周りを置き去りにしてしまったらしい。
明らかに自分の感情に、地主様を巻き込んでしまった。
私が手を彼の上着に掛けていなければ、彼はどこへなりとも自由に行けたはずなのだ。
また、見っとも無いところを見せてしまった。
地主様の前で泣いて大騒ぎするのは、これが初めてではない。
今更といえば今更だが、あんまり居心地の良いものではなかった。
『申っ、…しわけっ、ありません。お見苦しい所を、っく』
アレだけ勢いがあったはずなのに我に返った途端、気恥ずかしくもあってかしゃくり上げ始めていた。
嫌になる。
『何も謝らなくていい、カルヴィナ。また日を改めよう』
無意識で古語で詫びていたらしい。
地主様は私が古語で話し掛けると、それに合わせてくれるのだと気が付いている。
「戻るか」
地主様が古語をやめて宣言した。
それは私だけにではなく、村の若者に向けられてのようだった。
「……。」
首を縦にも横にも振れず、ただ固まる。
正直、まだ帰りたくない。
だからといって、このままここに居るのもどうかと思う。
「待った! 地主サマ、魔女の娘は森に帰してくれ」
「それは出来ない」
どうして地主様に言われると、そんなに腹が立たないのだろう?
不思議に思いながら、地主様の言葉に耳を傾けていた。
感情的ではなく、何か考え合っての事だろうと思わせる落ち着いた声に耳を澄ます。
自分よりも恐ろしく格が上であると、認識しているからだろうか。
それもある。
我が物顔であるのは、この彼と大差ないはずだ。
それでも彼が「駄目といったら駄目だ」という時は、絶対だと多々思い知らされてきたせいなのか。
わからない。
ただ一つ、これだけは言える。
どうあっても足りない税金分を綺麗に納めてからでないと、答えは出ないという事だ。