大地主と大魔女の娘
祭りの準備に駆り出される娘
犬の鳴き声が聞こえてくるという事は、エルさんが戻ってきたという事だ。
良かった。これで少しはマシになる事を期待する。
コンコン、と扉が叩かれた。
扉はすでに薄く開いており、そんな風に気を使う所がエルさんだと思ったら、ひょいと覗き込んだのは金の髪の女の子だった。
「エイメリィ様にお会いしたいと仰るので、お連れしました」
さらりとエルさんは言った。
「私もお邪魔して、大丈夫かな?」
びっくりしながらも、こくこくと頷く。
足取り軽やかに彼女が私たちに近付くと、部屋の雰囲気がガラッと代わった。
「あ! こら~! また、このコいじめて泣かせたの……は、誰かしらね?」
「うるせぇのが来た」
「よし。オマエだな、ジェス。エイメを泣かせたのは。そこに直りな?」
軽やかな足取りの主は躊躇うことなく、自分よりも随分高くにある胸倉を取った。
いつかもどこかで見た光景である。
この自分と年のあまり変わらない少女にも、見覚えがあった。
たまに村で絡まれてしまうと、いつでも駆けつけて来てくれた恩人の顔を忘れる訳が無い。
明るい蜂蜜色の髪が眩しくって、それに負けない笑顔を私にも向けてくれた。
彼女はそのたおやかな見た目に関わらず、なかなかの度胸の持ち主だと常々思っていた。
でなければ、魔女の娘にそうそう関わろうとしないはずだ。しかも愛想よく。
それでも勢いに飲まれて、ぽかんとしてしまった。
地主様から知り合いかと、尋ねられてようやく我に返ったくらいだ。