大地主と大魔女の娘
「ミルア。ミルルーア・シュゼット」
彼女の名前を呼んだ。
澄んだ青空色の瞳が真っ直ぐに私を見つめると、困ったように笑いかけた。
真っ白の歯が、ツヤツヤの唇からこぼれるように覗く。
飛び切りに可愛らしい。
これに参ってしまわない人なんていないだろう。
「お久しぶり、エイメ。急にいなくなったから心配したよ。でも、元気そうで良かった」
どうやらその言葉に偽りは無いらしい。
胸倉を掴んでいた手を離して、私に向って両手を広げた。
それくらい熱心に両手を握り締められて、苦しいくらに抱きつかれたのだ。
「あ、ありがとう」
どうにか、そう答えるのが精一杯だった。
「何を怒っていたのか分からないけれど、随分と良い調子だったわね」
聞いていたの? とこっそり尋ねる。
「そうそう!」
聞こえちゃったのよと、悪びれる様子も無く囁かれた。
「生きているって感じがした」
そうイタズラっぽく言われて、安心したよ、と笑われた。
いったい何時(いつ)から聞かれていたのだろう。
ミルアの言葉から察するに、だいぶ前からだろう。
恥ずかしくって顔が火照った。
ミルアは「あはは!」と笑い出す。
段々と忍び笑いが堪え切れなくなって行くらしいその様子に、首を傾げるより他に無い。
「ううん。いい気味っていうか小気味良いなと思わない?」
男ってしょうがないわね、って思わない?
そう、ごくごく小さく付け足された。