大地主と大魔女の娘
「私たちブレンダニィの村人は困っているのです、地主様」
ミルアが地主様と聞いていくらか態度を改めた。
まさか大地主様が、こんな所に足を運ぶとは思っていなかったらしい。
ロウニア家にお仕えの人が付き添って来たのだろう、くらいにしか。
最初は驚きも露わに目をまん丸にして地主様を見て、私を見た。
大 地 主 様 ご 本 人 ! ?
眼差しが雄弁にそう語っていた。
それでもしばらくすると落ち着きを取り戻し、やはり彼女らしく物怖じしない。
「聞こう」
ありがとうございます、と頭を下げてからミルアは切り出した。
「村はもうじき収穫を祝い、森への感謝を捧げる祭りを迎えます。それなのに森には魔女が不在なのです」
「ああ」
「祭事に必要とされる香草や薬草や蝋燭に、仕上げの呪文。その他もろもろに必要な森の知恵や、お祭りの時に捧げる祈りの言葉を教えてくれる者が、今は不在です」
「おまえ達だけでは、準備がままならないと言うのか?」
「その通りですわ、地主様。できるのはある程度であって、完璧ではありません。祭りまであと十日を切りました」
真剣な面持ちでミルアは頷いた。
傍らに立っていた村長の息子の彼も、身を正して頷く。
そんな中、自分だけが椅子に腰掛けているのは気が引けた。
「大魔女が立ち去った森に恩恵が望めなくなる事や、祭りに不備があったせいで凶事を予測する者だっているんだ。例えそれがどんなに馬鹿げた、迷信めいたものにしか感じられないとしても。今、村には古語を操れる者がいないんだ。――エイメ以外に」
「祭事に欠かせない祈りの言葉は古語で無ければ、森に住まう神々や精霊には伝わらないとされているのです」
「いつもなら巫女役が早い段階で大魔女に教わるんだが、今回はそうも行かなかった。だから、エイメの力を借りたい」
いつしか二人は地主様では無く私の方を見て、熱心に言っていた。
正直、向けられた事のない熱意に気圧されてしまう。
思わず俯きかけたが、どうにか堪えて二人を見つめた。
真剣な眼差しが、本当に困っているのだと訴えてくる。
そうだ。泣いてばかりいても仕方が無い。
足がどうであろうと、見てくれがカラスであろうと私が「大魔女の娘」であることに変わりは無い。
おばあちゃんは言ってくれた。
『おまえは私の自慢の娘だよ』
ならばそれに恥じない行いをするまでだ。