大地主と大魔女の娘


 「私たちブレンダニィの村人は困っているのです、地主様」

 ミルアが地主様と聞いていくらか態度を改めた。

 まさか大地主様が、こんな所に足を運ぶとは思っていなかったらしい。

 ロウニア家にお仕えの人が付き添って来たのだろう、くらいにしか。

 最初は驚きも露わに目をまん丸にして地主様を見て、私を見た。

 大 地 主 様 ご 本 人 ! ?

 眼差しが雄弁にそう語っていた。

 それでもしばらくすると落ち着きを取り戻し、やはり彼女らしく物怖じしない。

「聞こう」


 ありがとうございます、と頭を下げてからミルアは切り出した。


「村はもうじき収穫を祝い、森への感謝を捧げる祭りを迎えます。それなのに森には魔女が不在なのです」

「ああ」

「祭事に必要とされる香草や薬草や蝋燭に、仕上げの呪文。その他もろもろに必要な森の知恵や、お祭りの時に捧げる祈りの言葉を教えてくれる者が、今は不在です」


「おまえ達だけでは、準備がままならないと言うのか?」


「その通りですわ、地主様。できるのはある程度であって、完璧ではありません。祭りまであと十日を切りました」

 真剣な面持ちでミルアは頷いた。

 傍らに立っていた村長の息子の彼も、身を正して頷く。

 そんな中、自分だけが椅子に腰掛けているのは気が引けた。


「大魔女が立ち去った森に恩恵が望めなくなる事や、祭りに不備があったせいで凶事を予測する者だっているんだ。例えそれがどんなに馬鹿げた、迷信めいたものにしか感じられないとしても。今、村には古語を操れる者がいないんだ。――エイメ以外に」


「祭事に欠かせない祈りの言葉は古語で無ければ、森に住まう神々や精霊には伝わらないとされているのです」

「いつもなら巫女役が早い段階で大魔女に教わるんだが、今回はそうも行かなかった。だから、エイメの力を借りたい」


 いつしか二人は地主様では無く私の方を見て、熱心に言っていた。

 正直、向けられた事のない熱意に気圧されてしまう。

 思わず俯きかけたが、どうにか堪えて二人を見つめた。

 真剣な眼差しが、本当に困っているのだと訴えてくる。


 そうだ。泣いてばかりいても仕方が無い。

 足がどうであろうと、見てくれがカラスであろうと私が「大魔女の娘」であることに変わりは無い。

 おばあちゃんは言ってくれた。


『おまえは私の自慢の娘だよ』


 ならばそれに恥じない行いをするまでだ。



< 152 / 499 >

この作品をシェア

pagetop