大地主と大魔女の娘


 「地主様」

「……何だ」

 一瞬の間を置いてからぼそりと呟くような返答があった。

 それに怯みそうになったが、拳を作って堪える。

 目を逸らさないようにするだけで精一杯だったが、彼を見上げた。

 言葉がなかなか出てこない。


 それでも彼が辛抱強く待ってくれている事だけはわかる。

 この方は人の話を聞かない人ではないのだ。


「あの、村祭りの準備が必要なようです。手伝いに行く事をお許しください。大魔女の娘としてやる事があるのです。準備が済んだら、地主様のお役に立てるように戻りますから。その、家にある薬草の干したものや、種を持って帰って傷薬やお茶をこしらえますから」


「準備だけなのか?」


 地主様がどこか慎重に言った。


 それだけで済むのか、と確認されているようだ。


「え? は、」


「何言ってんだよ! 俺と祭りに参加するだろ」


 当然の事とはい、と答えようとする前に遮られた。


「え? え?」


 腕を引かれて振り返り見上げれば、ジェス青年がどこか必死の様子で言う事に驚いた。

「なあ!」


 よくわからないまま彼を見つめていると、ことさら強く腕を引かれた。

 頷けと言う事なのだろう。それくらいならわかる。

 だが彼がそんな事を言いだす意味がわからなくて、ますます混乱した。

 少しの間、固まってしまう。

「お祭りに、参加? 魔女の役目はいつも準備をするまでだったと思うんだけど」


 そうだ。後は村長さんや、巫女役に選ばれた娘たちの出番のはずだ。

 何を隠そう私、魔女の娘はお祭りに参加した事がない。


 魔女の祭りはすでに祭りが始まる前から始まっており、準備が済めば魔女の祭りは終わるのだ。

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