大地主と大魔女の娘


 いつもこの時期になると、おばあちゃんとお祭りの準備をした。

 森の恵みは年中だけれども、一番多くなるこの季節。

 感謝を表し、また来年も変わらず恵みがいただけますようにと、祈りを捧げるためのお祭りだ。

 おばあちゃんと村に顔を出す事が多くなるのが、この時期だった。

 頼まれ物をお届けにあがったり、施す刺繍の図案の相談に乗ったり。

 おばあちゃんと一緒に、巫女役に選ばれた娘さんに、お祭りで女神様と森の神様に捧げる祈りの言葉を教えたり。

 二十日間はほとんど毎日のように、村と森の家とを行き来する。


 準備に訪れるたびに、村に溢れる活気が日に日に増して行くのを感じる。

 そわそわと浮き立つような感覚が伝わって来て、私も何だかふわふわした気分になってしまうのが常だ。

 広場にやぐらを男の人たちが作り上げて行くのを、遠くから見かける。

 その近くの祭壇に捧げ物や、儀式に使う杯を用意する頃にはたいてい完成している。

 それを遠巻きに眺めながら、今年も無事に準備が済んだと思いつつ、心の中で一息つく。

 出来上がったやぐらには、その日のために準備した祝福の木の実が入ったお菓子と、乾燥させたリィユーダの花と葉が積み上げられる。


 それを巫女役の娘と、森の神様の役の若者が下にいる皆に撒くのだそうだ。


 私は実際に、その様子を見た事が無い。人づてに聞いただけだ。


 それは森の神様からの祝福とされていて、一年間の幸いを授け、魔を払ってくれるのだそうだ。


『おばあちゃんはお祭りに行かないの?』

『ああ。おまえは行っておいで』

 おばあちゃんはいつも、弱々しい笑みを見せた。

 疲れたのだろう。

 口にはけっして出しはしないが、いつも準備が終わった後は辛そうだった。

『ううん! おばあちゃんが行かないなら、行かない』

『ワタシに遠慮する事なんてないんだよ? 行っておいで』

『ううん、行かない。おばあちゃんと一緒がいいの』

 おばあちゃんを一人きりにして、自分だけがお祭りに参加するなんて嫌だった。

 それに一人きりで行く勇気も無かった。

 きっとまた、カラス娘とはやし立てられるに決まっている。


 せっかくの楽しい気分を、塗りつぶされてしまうのが怖かった。


 おばあちゃんこと大魔女と、一緒に準備が出来ただけで充分満足だ。

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