大地主と大魔女の娘


 そうやって魔女は祭りを迎え、そして終えるのだ。

 今までずっとそうやってきたのに、何故そのように言い出すのか分からなかった。

 きょとんとしてしまう。


「オマエはいつもさっさと帰っちまうから、知らないだろ? 祭りの様子をさ。だから、オレと一緒に祭りに行こうぜ。準備だけじゃ、オマエだって面白くないだろう? なあ!」

「ううん、行かない」

 即座に首を横に振る。

 ジェス青年が勢い良く屈んで、私と目線を合わせてから、なおも続けた。

「どうして、そんな事言うんだ?」

「どうしてって……。魔女だから?」

「関係ないだろう」

 必死に言い募る様子に気圧されて、思わず身を引いてしまう。

 何だろう。あんまりにも真剣で熱っぽい眼差しに、焼かれてしまいそうになる。

 どうあっても逃げたくなって、小さく「離して」と訴えた。

 肩に食い込んだ力が増す。

「いい加減にしないか」

「いい加減にしときなよ、ジェス! ますます嫌われるよ!」

 地主様の静かだが苛立ったお声と、ミルアの威勢のいい声が被った。

「うるせぇな」


「オレとじゃない! 私たちと! お祭りに参加するのよ、ねっ!?」

「え? え、と?」

「当たり前じゃない! そうでなければ誰が古語を操れるって言うの? お祭りを手伝ってくれるのでしょう、大魔女の娘よ?」


 ミルアが嫌に改まって言うので、思わず頷いてしまった。


「う、うん!」

「はーい、決定! もちろん、地主様もリヒャエルさんもご一緒にどうぞ」

「……。」

 地主様は何も仰らない。

 エルさんは、俯いて小刻みに肩を揺らしている。

 必死に笑いを堪えているようだ。

 今のやり取りのどこに、笑える所があるのだろうか。

 エルさんが解らない。


 私はハラハラしながら、事の成り行きを見守っている事しか出来ずにいる。

「ミルア、おまえなぁ」

「何よ? 何か文句あるの? 無いでしょ。あるとしても言わせないけどね」

 ミルアは自分よりもずっと、背の高い青年を見上げながら凄んでいる。


 図体では負けていないはずの青年は、決まり悪そうに背を丸めて、しきりに後ろ頭を掻き毟っていた。





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