大地主と大魔女の娘


「あー! もう、わかったよ!」

「よろしい。じゃあ、さっさと村長さん達に報告に行きましょう。今年は森の魔女に加えて、地主様もご参加下さいますから、間違いなく大成功! にぎやかになりますよって」

 ミルアが嬉しそうに笑い声を上げながら、私の両手をすくい上げて、ぶんぶん振り回した。

 。・。:*:。・:*:。・。:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 それからすぐに村へと案内された。

 途中、雨がぱらつき出した。

 村に付く頃には、本格的などしゃぶりとなっていた。


「ジェス! じゃあ、頼んだわよ」


 と、言い残すとミルアは、土砂降りのなか自分の家に逃げ帰って行った。


 村長さんの家に招かれ客室に通され、地主様は丁重にもてなされる。


 地主様が魔女の私を、ロウニア家専属の魔女にしたと告げたお蔭なのか、それは私にまで及んだ。

 目の前のテーブルに、お茶とチーズを挟んだパンと、蜂蜜をかけた焼き菓子が並べられる。

 久しぶりに会った村長さんは、優しく微笑み掛けてくれた。


 こうしてよくよく見ると、ジェス青年と似ているのは髪と瞳の色だけの気がする。

 村長さんはどちらかと言うと小柄で、少しふっくらされているせいかもしれない。


 口調も気性も穏やかで、いつも会うとほっとする。

「元気にしていたかね?」

「はい」

「たくさん食べて行きなさい。遠慮する事は無いからね。さあ」

 何故かしきりに、お菓子を勧められた。


 そうは言われても、そんなには食べられない。

 ありがたいが申し訳なく思って、地主様を窺ってみた。


「この娘は小食な性質のようで、こちらも手を焼いている」

「さようでございましたか。エイメ。ちゃんと、食べているのかい?」

「はい。食べています」

「そうか。なら、いいんだが。エイメ、遠慮しないで食べて行きなさい。さあ、これは好きかな?」

 私に好みを尋ねながら村長さんは、次々とお菓子をお皿に載せてしまう。


「はい。ありがとうございます」

「村長。あまりこの娘に菓子を与えると、また夕食は要らないなどと言い出すので程ほどに頼む」

 まさにそう言うつもりでいた。


「そうでございましたか。じゃあエイメ、残したら包んであげよう。日持ちするから後でお上がり」

「ありがとうございます」

 その間、傍らに同席していたジェス青年は、一言も余計な言葉を発さなかった。

 地主様と村長さんは祭事に必要な事柄から、村の様子や治安や今年の収穫の出来具合等について話し始める。

 私はどうやら食べる事に専念した方が良さそうだった。

 ただその打ち合わせ中、何度も視線を感じた。

 ひとつは地主様で、もうひとつはジェス青年だった。

 そっと窺うと視線が合う。


 合うたびにさり気なく逸らされるので、あまり見ないようにする。


 時折り、村長さんとも視線が合った。

 村長さんだけはにっこりと笑いかけながら、お茶やお菓子のお代わりを勧めてくれる。


 雨音が激しくなって、窓に打ち付けられていた。


< 156 / 499 >

この作品をシェア

pagetop