大地主と大魔女の娘
「あー! もう、わかったよ!」
「よろしい。じゃあ、さっさと村長さん達に報告に行きましょう。今年は森の魔女に加えて、地主様もご参加下さいますから、間違いなく大成功! にぎやかになりますよって」
ミルアが嬉しそうに笑い声を上げながら、私の両手をすくい上げて、ぶんぶん振り回した。
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それからすぐに村へと案内された。
途中、雨がぱらつき出した。
村に付く頃には、本格的などしゃぶりとなっていた。
「ジェス! じゃあ、頼んだわよ」
と、言い残すとミルアは、土砂降りのなか自分の家に逃げ帰って行った。
村長さんの家に招かれ客室に通され、地主様は丁重にもてなされる。
地主様が魔女の私を、ロウニア家専属の魔女にしたと告げたお蔭なのか、それは私にまで及んだ。
目の前のテーブルに、お茶とチーズを挟んだパンと、蜂蜜をかけた焼き菓子が並べられる。
久しぶりに会った村長さんは、優しく微笑み掛けてくれた。
こうしてよくよく見ると、ジェス青年と似ているのは髪と瞳の色だけの気がする。
村長さんはどちらかと言うと小柄で、少しふっくらされているせいかもしれない。
口調も気性も穏やかで、いつも会うとほっとする。
「元気にしていたかね?」
「はい」
「たくさん食べて行きなさい。遠慮する事は無いからね。さあ」
何故かしきりに、お菓子を勧められた。
そうは言われても、そんなには食べられない。
ありがたいが申し訳なく思って、地主様を窺ってみた。
「この娘は小食な性質のようで、こちらも手を焼いている」
「さようでございましたか。エイメ。ちゃんと、食べているのかい?」
「はい。食べています」
「そうか。なら、いいんだが。エイメ、遠慮しないで食べて行きなさい。さあ、これは好きかな?」
私に好みを尋ねながら村長さんは、次々とお菓子をお皿に載せてしまう。
「はい。ありがとうございます」
「村長。あまりこの娘に菓子を与えると、また夕食は要らないなどと言い出すので程ほどに頼む」
まさにそう言うつもりでいた。
「そうでございましたか。じゃあエイメ、残したら包んであげよう。日持ちするから後でお上がり」
「ありがとうございます」
その間、傍らに同席していたジェス青年は、一言も余計な言葉を発さなかった。
地主様と村長さんは祭事に必要な事柄から、村の様子や治安や今年の収穫の出来具合等について話し始める。
私はどうやら食べる事に専念した方が良さそうだった。
ただその打ち合わせ中、何度も視線を感じた。
ひとつは地主様で、もうひとつはジェス青年だった。
そっと窺うと視線が合う。
合うたびにさり気なく逸らされるので、あまり見ないようにする。
時折り、村長さんとも視線が合った。
村長さんだけはにっこりと笑いかけながら、お茶やお菓子のお代わりを勧めてくれる。
雨音が激しくなって、窓に打ち付けられていた。