大地主と大魔女の娘
打ち合わせを終えて、小降りになった所を見計らって、急いで村を出た。
「今日は狩り日和だと言っていたな、魔女の娘?」
帰りの馬の上で、嫌味っぽいような、呆れたような調子で言われてしまった。
私も濡れないようにと、頭からフードつきの外套に包まれている。
それでも叩きつける雨音に負けないようにと、そこは譲らずに言い張った。
「はい。今日は狩りに最適の日でした」
「おまえは」
ふいに頭を、フード越しにごしゃごしゃとかき回されてしまった。
「俺が森の生きものを傷つけるのが嫌だったのか?」
「……。」
「わかった。おまえの前では狩りはしない。しかし、生きるためだけには行う。それでいいな?」
こくんと頷くと、また同じように頭をごしゃごしゃにされた。
館に戻った頃にはすっかり日も暮れていた。
「急いで湯につけて、着替えさせてやってくれ」
自身も前髪から雫を滴らせながら、地主様はお姉さんに私を預ける。
その横にはリディアンナ様が、恨みがましそうに地主様を見上げていた。
大きく口角の下がった唇を開くと「ずるいわ! 叔父様ったら!」と叫ぶ。
「まだ居たのか、リディアンナ。帰らなくていいのか?」
「今日は泊まります! カルヴィナと夜通しおしゃべりします!」
「カルヴィナは今日は色々あって疲れている。明日にしなさい」
「カルヴィナ、叔父様のおっしゃっている事は本当?」
「ええと。確かに色々ありましたが、そんなに疲れてはいません」
「じゃあ、今日は一緒に眠っても良いでしょう? 夜通しおしゃべりっていうのは、嘘だから。眠るまででいいから、今日の事を話して聞かせてくれる?」
「はい、喜んで。リディアンナ様」
不安そうだったリディアンナ様に、笑顔が戻った。
横で地主様が「まず、着替えと食事が先だ」と、口うるさく繰り返しているのに「わかっておりますわ、もちろんです、叔父様!」と、リディアンナ様がやり返す。
夕食の席でも、そのままの雰囲気が続いた。
リディアンナ様は置いて行かれた事が相当、残念でならず悔しかったらしい。
しきりに地主様はズルイと繰り返していた。
眠る仕度を整えて、早い内から寝台に二人で寝そべった。
それから、乞われるままに今日あった出来事を話した。
リディアンナ様はさかんに感動して見せ、つくづく一緒に行かれなかったのは残念でならないと、零し続けた。
そうこうする内に、いつの間にか二人とも眠りに落ちていた。
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翌朝、早く目が覚めて二人でさっさと身支度を整えた。
リディアンナ様は待ち切れないと言って、地主様を起こしに行ってしまった。
「叔父様! わたくしも一緒に、カルヴィナとお祭りの準備に行きます!」