大地主と大魔女の娘
これ以上かける言葉も見つからず、まずは茶をすすった。
寝覚めの身体の腹に、温かさが染み渡る。
茶は薄い緑色という、初めて目にした色合いだったが、香味良く後味がすっきりとしていた。
「美味いな」
思わず素直に感想がもれていた。
「カルヴィナが昨日持ち帰ったという、薬草と香草を調合したお茶よ」
リディアンナが得意げに教えてくれた。
カルヴィナはどこか安心したように、ゆったりと頷いて微笑んだ。
白い頬にうっすらと赤味が差して行く。
その様子に思わず目を瞠ってしまう。
同時に腹だけではなく、胸元まで温かくなった気がした。
この茶が身体に沁みるのは、昨夜は少々酒が過ぎたせいだろうか。
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村長はカルヴィナを見るなり、しきりに菓子を勧めてきた。
そこにちゃんと食事を与えているのかという、無言の圧力を感じた。
当然だろう。
この娘の小食ぶりには手を焼いていると告げたが、どこかまだ疑わしそうな視線を向けられた。
カルヴィナが反応に困った様子で、こちらを見上げてきたので頷いてやると、やっと食べ始めた。
「おいしいかい? さあ、これもお上がり」
口の周りに菓子のかけらを付け、唇を蜂蜜で濡らし、カルヴィナはこくこくと頷いていた。
一口を口に含んだら、そのまま菓子を両手で持ったまま、咀嚼(そしゃく)し続けている。
甘みに心揺り動かされたのか、心なしかその表情は明るかった。
館で食事を一緒に取った時には、見たことの無い表情だった。
それをいささか悔しくも感じたが、カルヴィナのいつにない熱心な食欲に安堵する。
もぐもぐと無心に菓子を頬張る姿は、子リスにしか見えない。
正直に言うならば、恐ろしい愛らしさだった。
即行、その場で彼女を抱え上げて、暇(いとま)を言い出さなかった自分を褒めたい。
「エイメ、地主様は、その。良くしてくださるかい?」
「っ、はひっ!」
慌てて答えてカルヴィナは、けほけほとむせていた。