大地主と大魔女の娘
まだいくらも食べ進んでいない菓子を構えたまま、こちらを見てから、村長の息子の方を見た。
視線を感じて気になったのだろう。
安心させる為に頷いて見せてやると、安心したのか、再び口を動かし始めた。
「…………!」
言葉も無いまま惚けたアホ面を晒す青年の姿を、視界の端で捉える。
それを横目でいなすと、慌てたように表情を引締めようとしていたが、上手く行っていなかった。
カルヴィナに目を奪われ、どうあっても視線をはがす事が出来ないらしい。
赤面したのを誤魔化すように、しきりに口元に手を当てていた。
「それでは村長、明日から早速祭りの準備に取り掛からせるとしよう」
「助かります、地主様。では明日からエイメを迎えに行き……。」
「俺が送り届け、夕刻には迎えに来る。それが条件だ」
「承知いたしました」
青年が何か口を挟みたそうだったが、先にこちらの意向を告げた。
その場はそれで済んだはずだった。
館に帰り着き、カルヴィナに湯と食事を取らせ、リディアンナに任せた。
問題は二人に早く休むようにと告げて、自室に戻ってからである。
神経が冴え渡り、いっこうに眠気が訪れなかった。
早朝から出かけ、雨に打たれた身である。
身体は疲れを訴えている。それでも。
何ともいえない不快感に襲われる。
――大地主サマとやら。アンタだって、俺と立ち位置はそう変わらない。
その言葉が、何故かしきりに繰り返し蘇った。
何の話だ。
あの時そう言い返しておけば、こんな不可解な思いに囚われずに済んだのだろうか。
勝手に自分は許嫁だなどと言い出す男と同じ、だと?
我が物顔で魔女の家を歩き回り、真名を迫り、自分と祭りに参加するのだと言い出す男とか?
カルヴィナにしては珍しく、声を荒げて拒否していた。
いちいち相手にするのも馬鹿らしく、あの場はあえて無視したが、本当は言ってやりたかった。
――オマエと一緒にするな。
それこそ、何の話だ。
気が付けば杯を重ねていた。
そんな有様だった。
おかげで今日の目覚めは悪かった。