大地主と大魔女の娘

祭りの準備にかかりきりの娘



 「あの時ね。独り占めしないで下さいって、言ってやるつもりだったの」

 向かい合って二人きりでの作業中、ミルアが突然そんな事を言い出した。

 思わず、手が止まる。

 乾燥させた薬草の花と葉を選り分けていた所だ。

 何の事やら。

 ミルアの話は大抵が突拍子も無く、突然始まる。


「あの時って、いつの事? 誰に、何を?」

「初めてお会いした時の事。地主様に、エイメを」


「私を、独り占め?」

「でも、できなかった」

「流石のミルアでも、ちょっと……どうかと思うな。地主様だし」

「い・や。私はそういう意味でなく、負けたのよ。なんかね~アンタを大事に思いやってるからさ」

 ――当たり前のように寄りそう雰囲気は犯し難かったのよ。


 ふぅっとため息を付きながら、ミルアがこぼした。

 視線は明後日の方向だ。

 いったい彼女の目には、何が映っているのかと思わずにはいられない。

 思うが問いかけたりなんてしない。

 疑問は胸の奥底にしまうに限る。

 問い掛けたら最後、もっと疑問が増えるのは目に見えている。

 私自身、これ以上の追及は止めにして、選り分けを開始する。


 かさかさという音とともに、香草独特の良い香りが飛んでくる。


 この香りは心を穏やかにしてくれる作用を持つ、とおばあちゃんから教わった。


「普段はどんな事を二人で話すの?」

「……特には何もないよ」

「えええ!? そんなわけ無いでしょう?」


 ほらっほらっ、思い出して!

 そう言われてみても、ちっとも何も浮かばない。

 ミルアの期待の込められた眼差しに、たじたじと後ずさりしたくなる。

 何もかも見透かすかのような、澄んだ青空の前で感じるのと、同じ気持ちになる。

 それと同時に何もかも、洗いざらい話してしまいたくなるのがズルイなと思う。

 苦笑しながら「そうだねぇ?」と、考えるふりをした。

 本当に話す事なんか、無い。

 見当たらなくて途方に暮れている毎日なのだ。

 だから私の方から話しかけることはあまりなく、地主様からも特には無かった。

 二人、無言のままで往復する。

 それも、もう三日目になる。

 今朝も無言で抱えあげられ馬に乗せられて、送り届けてもらった。


『ありがとうございます』


『ではまた夕刻に迎えに来る』


 古語でそう交わした。それきりだ。

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