大地主と大魔女の娘
地主様が、もう少し森の中を行って下さると仰った。
彼の気が変わる前にと、大急ぎで頷く。
一体どういった風の吹き回しだろう。
正直そう思ったが、この際どうでもいいかとも思った。
久しぶり「森のあの方」にお会いできるのならば。
地主様もきっと彼を一目見たら、驚きに目を瞠ると思うのだ。
そして、その大らかさと威厳に魅せられるに違いない。
「あちらに……。何だと?」
乗り出す私を抱えたまま、地主様の動きが止まった。
「森の彼でございます、地主様。このまま、まっすぐ行かれてみてください」
そう案内する。
なのに、地主様は私の指し示した方向から馬を一回りさせ、背を向けてしまった。
視界が、望む方向から引き剥がされてしまう。
「地主様? どうかなさいましたか?」
「……。」
恐るおそる問い掛けたが、地主様は押し黙ったままだ。
やはり気が変わられたのだろうか。
未練がましく身を捩って、振り返って見やる。
駄目なら、最初から期待などさせないで欲しい。
がっかりしてうな垂れていると、また、ゆっくりと馬が一回りした。
ブ・ルルルルル―――!
いななき鼻を鳴らし、不満そうに歯をむき出しにして、耳を後ろに伏せている。
「どう、どう。馬が怯えている。あちらには何があるという、カルヴィナ?」
いやいやするように首を打ち振る馬を宥めながら、地主様が渋い表情で尋ねてきた。
「怯える。では、行かれませんね」
「まさか、危険なのではあるまいな?」
「いいえ、危険なんてありません。でも、少し近寄り難いかもしれません。私も常々そう感じておりましたから」
「そうか。ならば行ってみるとするか」
「はい!」
嬉しくなって、元気良く返事をした。