大地主と大魔女の娘
一瞬の間の後、一羽が舞い降りてくれた。
一羽が降りたのを見て、安心したのだろう。
いつものように、次々と舞い降りて来てくれた。
肩に腕に頭にと、くすぐったい微かな重みが加わる。
「ね、大丈夫でしたでしょう?」
小鳥たちに集(たか)られながら、地主様に得意げに言ってみた。
地主様は、じっとこちらを見つめていた。
呼びかけても、何の反応も無かった。
急にどうしたのだろう?
ついはしゃぎすぎて、馴れ馴れしくしすぎたせいだろうかと心配になった。
「地主さ、ま……?」
もう一度、声をかけたその時だった。
何かが視界を掠めた。
それは空から降って来て、地主様の足元に落ちた。
「何だ……? オークの実か」
そう言って地主様が見上げたのを合図に、また、ひとつ、ふたつと落ちた。
それは止むことなく、勢いを増して行く。
ぱらぱら、ぱらぱらっと、乾いた音が響く。
何と! 地主様の周りにだけ、オークの木の実が降ってきている。
ぱらぱら、ぱらぱらと彼の上にだけ。
「すごいですね! 地主様にだけ、降っていますよ」
ぱら、ぱら、ぱらとそれは淀みなく続いた。
こんな事は初めてだ。
「地味に痛いな」
羨ましくなって地主様に近付いた。
とたんにオークの実の雨は止んでしまった。
「どうやら俺は、あまり歓迎されていないようだな」
「え? その逆ではないのですか? 地主様にだけ、オークの恵みが落ちてきたのですよ」
どうして地主様は喜ばないのだろうか?
私だったら、すごく嬉しく思うのに。
慎重に腰を落として、落ちてきた実を拾い上げた。
つるつるして、ピカピカしている。
その小さくまろやかな実をつまみ上げ、心持ち目線よりも高く掲げて、木漏れ日にかざす。
うっとりとその美しさに見入っていると、地主様と目が合った。
そこで発見した。
「地主様の御髪(おぐし)の色とおそろいですね!」
深みのある茶色だが光沢があり、このように日の光によっては、もっと明るくも見えるし、深くも見える。
ジルナ様やリディアンナ様、ギル様ともおそろいだ。
嬉しくなって、つい声を上げてしまった。
「少しお土産に拾って帰りませんか?」
そう誘ってみてから、こんな事は子供っぽいと馬鹿にされるかと思った。
だが意外にも地主様は黙って頷くと、一緒にオークの実を拾ってくれた。