大地主と大魔女の娘
大魔女の娘と村娘たち
「これから差し入れに行くよ!」
「差し入れって、何? どこに?」
「やぐらを立ててる男衆に」
何故その必要があるのかと問い掛けるよりも早く、ミルアに手を引かれてしまう。
手にしていた編み糸と石が滑り落ち、テーブルの上に転がった。
それを慌てて受け止めて、下に落ちないようにする。
「わああああ!」
ミルアも大声を上げながら、同じようにした。
散乱しているリボンをかき集め、裁縫箱や布で取り囲み、ころころ転がる石たちをせき止める。
それから慎重につまんで、色事に分けた箱に戻してから、二人で息をついた。
「ミルアったら、急に何なの? 護符の石だって驚くでしょう!」
「そこは謝るわ、ごめん。でも、護符を作るのに必要不可欠なものが、エイメ! アンタには足りていないからよ。石が泣くわ」
「えぇ!? 何、さっきから嫌に突っかかってくるね?」
ミルアは明らかにイライラした様子で、ああ! だの、もう! だのとうるさかった。
流石の私も我慢の限界だった。
もうミルアと一緒に準備なんかしない、ケンカになるから別々にしようと言ったら、差し入れに行くのだと言い出されたのだ。
また、訳のわからない事を。
「エイメがここまでわからずやだとは思わなかった。責めるつもりじゃないけれど、見ているとイライラする」
「それ、地主様にもよく言われるわ。そう思うのなら、放っておいてくれればいいでしょう!」
前に、地主様に言われた事も思い出してしまい、視界が歪んだ。
自分が偉いからって、何なの。
そんなに私の事がイラつくのなら、構わなければ済む話なのに。
地主様もミルアも、どうしていちいち大声を出して突っかかってくるの?
それこそ、私のほうがイライラする!
悔し涙を滲ませながら、ミルアとにらみ合った。
普通ならここで出て行くだろうに、ミルアは違う。
しつこく、急かして来る。
「早く、早く! 行ってみれば分かる事もあるから」
「やぐらは逃げないでしょ?」
「あんたは人の話を聞いていたの!? その耳は飾りなのっ!」
「あー、もう。やかましいなぁ」
日に日にミルアの勢いと気安さは増して行っている。
気のせいではないと思う。
ミルアがその調子なので、私も遠慮しなくなった。
彼女の持つ気安さが、そうさせてくれるのかもしれない。
少々強引過ぎたりする事や、何だかんだと地主様や他の男の子と私を結び付けようとするのは勘弁して欲しい所だが、適当に受け流している。
そんな私の様子は、ミルアに言わせて見れば「同じ年頃の娘らしからぬ」という事になるらしい。
じゃあ、どうしろと言うのか。