大地主と大魔女の娘


 そう切り出したら、いきなり差し入れに行くなどと言い出した。

 勢いに飲まれたい訳でもないし、流されたい訳でもないので、一応は抵抗してみる。

「もうすぐ夕刻だから、地主様がお迎えに来てしまうのに行くの? それなのに、私がいなかったら失礼になるじゃない? だから、」

「あと一刻くらいは大丈夫でしょう。そんなに心配なら、こうしたらいいわ。そら」

 行かないと言う前に遮られた。

 言いながらミルアは、さっさと書置きを用意してしまった。



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「やぐらの準備の手伝いに行きます。

 すぐに戻って参ります。

 広場におります。

 広場は魔女の家を西に出て、村長の家を左に回り

 まっすぐ行くとあります。

 魔女の娘と石屋の娘より。」



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「どうよ。これで文句は無いでしょう。行くわよ」

「いいけど、差し入れって何も用意していないよ!」

「身一つで大丈夫よ。男どもにしてみたら、娘二人の華やかさで充分だ」

「意味が分からない」

「行けばわかるわよ」

 どうあってもミルアの勢いある説得には、訳がわからないなりに妙に納得してしまう。

 気が付けば流されてしまう。

 ミルアに手を引かれながら、歩き出す。

 家の脇にある小さな畑の横を通り過ぎた。

 あまり手入れしていなかったが、そんなに荒れていなくてほっとした。

 ほっとしながら、感謝した。

 きっとミルアとジェス青年が、手入れしてくれていたに違いない。

 そうでなければ、魔女の家にあのように乾燥させるために、逆さまに干される事も無かっただろう。

 つかまれた手を、ぎゅっと握り返した。


 いつも一緒にいると、考え方や感じ方が違うせいで衝突してしまう事になる。

 それなのに、お互い距離を置く事もなく一緒に行動している。

 何なんだろう。

 おばあちゃんとはいつも、一緒だった。

 もちろん、言い争いになる事なんて無かった。

 同じ年頃の女の子はみんな、こんな調子なのだとしたら、それはそれは未知の生きものだと思う。

 まあ、ミルアみたいな子は珍しいとは思うけれど。

「今、何か失礼なコト考えてたでしょ?」

「うん。ミルアってば珍しい子だな~って思ってた」

「何よ。アンタだって珍しい子だよ。魔女の娘だもの」

 言うようになったわね、とミルアが笑う。

 ミルアほどでは無いよと言い返す。

 そんな他愛のないおしゃべりを繰り返すうちに、広場に着いた。


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