大地主と大魔女の娘
今回は梯子(はしご)ではなく、階段を付けて皆が上に上がりやすくするので、時間が掛かっているそうだ。
確かに梯子では荷を上げるのも危ないし、巫女役や神様役の人たちが上がる時も不安定だろう。
昨年は怪我人が出たのかもしれない。
「安全に祭りを進めるためには、労力は惜しまない事にしたんだ」
と、ジェス青年に熱っぽく語られた。
「そうなの。うん、でもそうだね。誰か怪我をしたら嫌だものね。せっかくのお祭りが台無しになってしまうものね?」
感心しながら、やぐらを見上げた。
それからジェス青年を見上げると、誇らしげに笑っていた。
もう風も冷たくなってきたというのに薄着で、しかも袖を捲り上げている。
額には汗が光っていた。
その汗を熱心に見守りながら、手拭を両手で握り締めている子が傍らに居る。
暑い暑いとしきりに口にする赤毛の青年に、水を手渡す子も居る。
何て甲斐甲斐しいのだろう。
確かに女の力では手伝えない事も多いが、その分、他に出来る事を教えられた気がした。
青年たちが日が暮れる前にもうひと仕事と、作業に戻って行った。
その背を見送ると、女の子たちは簡単に後片付けをしてから、よけていた糸やら針やらを取り出した。
やぐらを飾る旗に刺繍をしたり、当日のための衣装の仕上げに取り掛かる。
「ねぇねぇ。ここの図案はどうかなぁ?」
思い切ったように話しかけられた。
この明るい茶髪の子とは、初めて話したかもしれない。
真剣な瞳は、薄紫だ。
「うん。えっと、この小鳥の意味だとね、わかるよね? 内緒にした方が想いが込められるから言わないよ。そこに赤い実を足すといいかも」
「うん! 糸は?」
「これ、これ使っていいよ! シュリ」
それから次々に相談された。
衣装の事や、仮面の事。
仕上げのおまじないの呪文や、唇を彩る紅の事。
身に付ける石の事は、ミルアが答える。
お祭りの日は、みんないつもとは違う「女性」になる。
なりたい、のだ。