大地主と大魔女の娘
相談されながら、私は誰に腕輪をやるのかと探られた。
誰にもやらないと言うと、すごく驚かれる。
信じられないと、皆が口々に言うのは何故なんだろう。
「じゃあ、作ってもいないの?」
「一応、作ってはいるよ。ミルアに見本を見せるために」
「本当に腹立たしいったら!」
「ミルア、ちょっと、不器用だものね」
悔しがるミルアを宥めるように、からかうように、女の子たちが笑いさざめく。
腕輪は男の人たちには見せるのは、上げる当日、本人だけにっていうのが決まり事だ。
だからこの場では誰もこしらえていない。
おしゃべりしながら、手は一生懸命に針を動かしている。
彼女たちの張り切りぶりはいっそ、見ていて清清しいくらいだ。
そうか。
お祭りにかける熱い気持ちが、私には足りないのか。
ミルアはそれを石に託せと言いたいのだろうか。
そうはいっても、私なりに必死なのは伝わらないのだろうか。
やぐら作業に取り掛かっている男の人たちに熱いまなざしを注いでいる、彼女たちの瞳は潤んで輝きを放っている。
確かに私は人より、熱意に欠けるかもしれないとは思う。
たいがい、ぼんやりしているという自覚もある。
今だって、この場にひしめく熱気に当てられながら、ただぼんやりと眺めているようにしか映らないことだろう。
それがイラつかせる原因だろうか等と、つらつらと考えこんでいた。
「――ねぇ?」
急に掛けられた声は、真剣だった。
はっと我に返って、声の主を見た。
最初に図案の事を訊いてきた、シュリと呼ばれた女の子だった。
「わたし、腕輪を渡したい人がいるの。今年こそ、ちゃんと渡したいの」
「うん」
「ずっと前から渡したかったけど、渡せないままお祭りが終わってしまっていたの」
「うん」
「今年こそ、彼を手に入れたいの」
「うん」
「どうしたら彼を手に入れることが出来ますか? わたしに出来る魔法があるなら、教えてください。大魔女の娘よ」
紫色の瞳を見つめながら、大きく息を吸い込んだ。
「えっと、手に入れたいっていうのは、それは身体的に? それとも精神的に?」
そこでミルアが、盛大にお茶に咽(むせ)た。
おばあちゃんには、そこが大事だからよく相談者に確認しなさい、と教わった。
答えによっては対処の仕方も変わってくるのだから、当然の事を訊いたまでなのに。
彼女が息を飲むのがわかった。
胸元がゆっくりと上下する。
周りを取り囲む娘たちも、同じ反応だった。
奇妙な静けさがありながら、熱気もある。
魔女の娘は急かしたりせず、静かに答えを待つ事にする。
そして揺れていた眼差しが、しっかりと定まってから、私を見た。
まっすぐに。
「両方」