大地主と大魔女の娘
両方――。
身も心も。
あの人を手に入れたいの。
お願い、わたしだけを見つめていて。
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その気持ちは尊いと思う。
未だ魔女の娘は抱いた事の無い想いだ。
私はゆっくりと頷いてから、答えた。
「それだけ真剣なら大丈夫。きっと伝わると思います」
「伝えたら彼もわたしのこと、そう思ってくれるの? こんな、何のとりえの無いわたしでも大丈夫って言えるの?」
心配そうな、少し不満の感じられる言葉が返ってきた。
「あのね。魔女の魔法は人の心の自由を奪ったりしません。出来ないもの。例え出来たとしても、とても空しいわ」
魔法で人の心をねじ伏せて、無理やり自分の思うようにする。
それは暴力だ。
おばあちゃんは常々そう言っていた。
「魔女が出来るのは想いを伝える勇気を与えるお手伝いをする事。あとは、ちょっぴりだけ、いつもよりも魅力的に見えるように手伝うだけ」
人の心だけは自由にしようとは思ってはいけないよ。
だけれども想いを伝える事は出来るはずだ。
それだけで充分だ。
風が吹きこんで、新しい流れがくる。
『それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です』
祈りの言葉を古語で捧げる。
「大魔女の、教え……。シュリ・ダイナーに祝福の、風を。あなたも、お花です。素晴らしい」
その祈りの言葉を、ミルアがたどたどしくも訳して呟いてくれていた。
もう一度、今度は皆にも解る言葉で祈る。
「それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です」
シュリは小さく頷いた。
唇を噛み締めて、頬は真っ赤だった。
「わかったわ。でも、魅力的に見せるってどうやればいいの?」
「あのね、まずは月を写した水で髪を洗ってね、香油があるから。それで髪を艶やかにしたりね、後は」
「香油はどんなもの?」
話の途中で、待ち切れないと言った様子のシュリが身を乗り出した。
「家にあるから分けてあげる。明日でもいいかな?」
「ありがとう!」