大地主と大魔女の娘


 両方――。

 身も心も。

 あの人を手に入れたいの。

 お願い、わたしだけを見つめていて。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・


 その気持ちは尊いと思う。

 未だ魔女の娘は抱いた事の無い想いだ。

 私はゆっくりと頷いてから、答えた。

「それだけ真剣なら大丈夫。きっと伝わると思います」

「伝えたら彼もわたしのこと、そう思ってくれるの? こんな、何のとりえの無いわたしでも大丈夫って言えるの?」


 心配そうな、少し不満の感じられる言葉が返ってきた。


「あのね。魔女の魔法は人の心の自由を奪ったりしません。出来ないもの。例え出来たとしても、とても空しいわ」

 魔法で人の心をねじ伏せて、無理やり自分の思うようにする。

 それは暴力だ。

 おばあちゃんは常々そう言っていた。


「魔女が出来るのは想いを伝える勇気を与えるお手伝いをする事。あとは、ちょっぴりだけ、いつもよりも魅力的に見えるように手伝うだけ」

 人の心だけは自由にしようとは思ってはいけないよ。

 だけれども想いを伝える事は出来るはずだ。

 それだけで充分だ。

 風が吹きこんで、新しい流れがくる。

『それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です』


 祈りの言葉を古語で捧げる。

「大魔女の、教え……。シュリ・ダイナーに祝福の、風を。あなたも、お花です。素晴らしい」

 その祈りの言葉を、ミルアがたどたどしくも訳して呟いてくれていた。

 もう一度、今度は皆にも解る言葉で祈る。

「それが大魔女の教えです。シュリ・ダイナーに祝福の風が吹き込みますように。あなたもまた、素晴らしいお花です」

 シュリは小さく頷いた。

 唇を噛み締めて、頬は真っ赤だった。


「わかったわ。でも、魅力的に見せるってどうやればいいの?」

「あのね、まずは月を写した水で髪を洗ってね、香油があるから。それで髪を艶やかにしたりね、後は」

「香油はどんなもの?」

 話の途中で、待ち切れないと言った様子のシュリが身を乗り出した。


「家にあるから分けてあげる。明日でもいいかな?」


「ありがとう!」



< 181 / 499 >

この作品をシェア

pagetop