大地主と大魔女の娘
馬に乗せられた後も皆、手を振って見送ってくれていた。
どんどん遠ざかる。
「……。」
どうか彼女たちがそれぞれ、相手にとって一番綺麗なお花でありますようにと祈った。
何だろう。
立ち去り難く感じて、思わず頬が引きつってしまう、この感じは?
すごく、帰りたくない。
どうあっても許してくれない、地主様が恨めしかった。
地主様なんか、やっぱりキライだと噛み締める。
日の暮れかけた村を抜けて、森の小道に出る。
徐々に馬足は速くなり、頬を撫で付けてくる風の勢いも増して行く。
だからだろう。
酷く冷たく感じるから、頬が強張るのだろう。
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森の風に吹かれているうちに、頭も少し冷めてきた。
今日も地主様は、お勤めの正装だ。
正直に白状するならば、そのゴワゴワした素材の衣服をまとった地主様からの、包まれ心地はイマひとつだ。
胸元にも飾りの釦や、小さな鎖が掛けてあるせいで、もたれると身体に当たって痛い。
その闇色一色の出で立ちは、凛々しくもあるが物々しくもあるように見える。
地主様が、より一層大きく頑丈に見せるそれは、おいそれと近寄ってはならない雰囲気を醸し出している。
神殿の護衛団の筆頭に立つという地主様は、指導者であるそうだから、それは当然かもしれない。
それほどのお立場なのだ。
威厳があって当たり前なのだ。
それをあえて解りやすく誇示するのが、服装なのだと思う。
でも、それは少し堅苦しくって、あんまり好きではない。
地主様自身もその格好はお好きではないと、漏らしていたのを聞いた。
堅苦しくて嫌になるそうだ。
そうほのめかしながら、諦めたようにため息をひとつ付かれた。
首もとを締め付ける高い襟に、指を掛けながら。