大地主と大魔女の娘

 それが手伝いの報酬のつもりならば、とんでもない賃金の低さだろう。

 特には欲しくは無いので、首を横に振って見せる。

 クルミの実のあぶらがじわりと指先をぬめらせるものだと、初めて知った。

 それだけで充分だと思った。


「……。」

「……。」


 カラン、カタン、カラン。

 しばらく沈黙の中、からのぶつかる乾いた音だけが部屋に満ちる。


「なあ、地主サマ」

「何だ」


 軽い口調は変わらなかったが、幾ばくかの緊張を含んで聞こえた。


「オレたちは償いたいんだよ。エイメを仲間はずれにして、祭りにこれないようにしちまった。年頃の娘にそりゃあ酷な事をしでかしたんだ。頼むよ」


「何をだ?」

「祭り前の数日間くらい、エイメを森に置いてやってくれ」

「断る」

「あんた将来、頭の固い頑固オヤジになるぜ」


 手を止め、俺をじろりと睨む青年を静かに見返す。


「準備も含めて祭りなんだよ。年頃の娘の楽しみを、あんまり邪魔するな。あんた、過保護すぎるぜ」

「何とでも言え」

 誰が狼の言葉を真に受けるか。

 そんな思いを眼差しに込める。

 殺伐とした空気が、一触即発といった空気に変わる。

 その時だった。

 トントントン、と軽やかに扉を叩く音があった。

 トン・トン・トン。

 トン・トン・トン。

「魔女っーこ! 居ますかー!」

「えいめ、いるでしょー」

「あけてくださぁい! 魔女っーこ」

 引っ切り無しに扉を叩きながら、幼い声が呼びかけてくる。


「うっわ。うるせえのが来たな」

 匙を放り出して、村長のせがれは後ろ頭を掻き毟った。


「しつこいから居留守は無駄だと思う。開けるしかないぜ、地主サマ」

「何だ? 子供か」


「ああ」

 心底諦めきった様子で、青年が扉を開けると幼い子供が三人立っていた。

「居たー!」

「ジェスじゃなくて、魔女っこはぁ?」

「魔女っーこ、おまじない、してー!」


 ころころと無邪気になだれ込んできた、好奇心に満ちた瞳が一瞬で固まった。


「「「……!!」」」





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