大地主と大魔女の娘
「おきて、おきて、魔女っこ! たいへん、わるものがきたのー!」
きゃあーと怖がり半分、興奮半分といった楽しげな悲鳴で目が覚めた。
そこで初めて、自分がいつの間にか寝入っていたのだと気がつく。
上体を起こすと、手元には作りかけの腕輪が転がっていた。
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そうだ。
ミルアがお祭りの日のために漬けておいた果実酒の瓶を、目ざとく見つけてしまったのだった。
そして味見をしたい、と言い出してきかなかったのだ。
ほんの少しくらいなら、と許したら、ゴキゲンになったミルアは私にも飲む様にと絡んできた。
これが酔っ払いか――。
等と妙に感心しながら、首を横に振って辞退したのだが、ミルアは許しちゃくれなかった。
いつも以上に感情も表情も豊かになったミルアを眺めた。
地主様もお酒を召されるが、こんな風にはなったりしない。
ふにゃっとしたいつもより無防備であどけない微笑みは、こちらの警戒心までをも蕩かしてしまう。
どうやら付き合うまでしつこく絡んでくるだろうな、と判断したから口を付けた。
慎重にゆっくりと飲んだ。
ミルアは調子に乗って、もう一杯注いでしまった。
それを横目で窺いながら「これは水で薄めて飲むくらいで丁度いいのだったな」と思い出した。
だがもう遅い。
ちびちびと舐めるように飲み下す。
花びらと果実と薬草を調合した液体は、舌に甘く絡んで咽喉を潤して滑り落ちる。
その落ちるのと同じ早さで、胸元がじんわりと熱く火照って行く。
ミルアの頬は真っ赤だった。
瞳はとろんとして、起きたまま夢を見ているようだ。
きっと私も大差ない事になっているだろう。
もっと飲むーとせがむミルアに、もう駄目だと瓶を取上げた。
もう味見どころではない。
しかし、酔っ払いというものはしつこいもので、ミルアはぐずぐずと諦めない。
ミルアにお酒はあまり飲ませない方がいいと気がついても手遅れだった。