大地主と大魔女の娘

 
「エイメは巫女の役回りを知っているね?」

「はい。いつもおばあちゃんから教わっていましたから、儀式の言葉も順番も大丈夫です。やり遂げます」


「そうかい。なら安心して任せる事が出来るよ。そう思いませんか、地主様?」
「ああ。カルヴィナならやり遂げるだろう」


「エイメ。巫女役の乙女はね……。未婚の女性でなければならないんだよ。もちろん、清らかな処女(おとめ)でなければならないのだよ。その事は知っているかな?」


「? はい、もちろんです」


 村長さんは念を押すみたいに尋ねてきた。

 私が魔女の知識をちゃんと受け継いでいるのか、確認しているのだろうか?


「よし。ちゃんと理解しているようで安心したよ。何せ言い伝えの乙女は、森の神様に嫁ぐ約束だからね。その日は一日、巫女役として振舞うのだから、そうでなくてはいけないよ。森の神様だけを想う乙女でなければ」

「はい、よく心得ております。村長さん」

「おお、そうか。そうか。エイメは立派な森の魔女だな。明日のお勤めも期待しているよ。――ねぇ、そう思いませんか? 地主様」


 そう厳重に締めくくると、地主様に笑顔を向けた。


 だが、どこか怖い笑みだった。

 目が……。目が、笑っていない。

「村長。解らないでもないが、それは要らぬ心配だ。カルヴィナには大魔女の加護がついている。不埒な想いを抱く者は、あの家にすら近づけやしない」

「さようで。ならば安心いたしましたよ。年を取ると、どうも心配性になってしまっていけない」

「俺から言わせてみれば、祭りにかこつけて群がる狼の方が巫女に噛み付きはしないかと心配だ」

「ああ。それはもちろん。祭りを前に浮かれるケダモノどもは、よぅく躾けてありますから。それこそ、ご心配には及びませんよ。なあ、ジェス?」

「親父、地主様。二人とも、言いたい事はよっく解るが、いい加減にしろ」


 最後の方には、ジェスまでもが不機嫌な声を出していた。


「地主様。お聞きになった通り。巫女は清らかな乙女でなければ資格が無い。そして、明日の巫女役はエイメだって事をお忘れなきよう」

「ああ。もちろんだ。決まっている」


「だったらエイメは今夜うちでお預かりしましょう」

「断る。それこそ不安材料だろう」

 まただ。

 終わりの見えないやり取りが繰り返される。


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