大地主と大魔女の娘
寝付けぬまま、どれほどの時が過ぎたのか。
微かに、だが聞きなれた乾いた音がした。
コツ……コツ……。
カルヴィナの突く杖の音だ。
細心の注意を払っているのだろう。
音は微かで、寝入っていたならば気にならないだろう。
気配を殺しながら、慎重に扉を開けた気配がした。
月明かりに誘われるように、カルヴィナは森に向って歩き出しているのを扉の影から窺った。
祭り前の森の気配を感じたい。
月の光は魔女の力になります。
そんなカルヴィナの言葉が蘇る。
ふらふらとした足取りはおぼつかないながらも、楽しそうに見えた。
だからと言って明かりも持たず、単身森の中をふら付くのは感心しない。
気配を殺すのならば、こちらの方が格上だ。
小剣を胸元に忍ばせてから、カルヴィナの後を追った。
すぐさま、いつも寄り添ってくるものの気配と足並みが揃う。
明かりが無いにも関わらず、足元が明るい。
いつもは控えめなはずの月明かりが、ここまで強いのを初めて感じた。
森の木々も力強くざわめきながら、魔女の娘を歓迎しているかのようだ。
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やがて木立が開けた先に、湖があった。
カルヴィナは静かに佇んでいる。
月の光を静かに受け止めている湖面は、魔女の娘の言う力とやらを蓄えているのだろう。
静かでありながら、力強く訴えてくるものがあった。
カルヴィナが何やら古語で呟いている。
よくよく耳を澄ましてみれば、歌を口ずさんでいるようだった。
口ずさみながら、羽織ったショールを置き、衣服を脱ぎ始めていた――。
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