大地主と大魔女の娘
月が雲に隠れたのだろう。
辺りは再び闇一色と成った。
そんな中でも獣の瞳だけが爛々と輝きを放ちながら、こちらを見据えていた。
まるで満月のような煌々とした光に射抜かれる。
もちろん逸らさず挑んだが、その側で淡く光を放つ白さ際立つ肌に、目が行ってしまうのは男の性(さが)だろうか。
そちらに目を奪われている合間に、月が再び姿を現した。
湖に映りこむ月光を浴びながらの水浴びをする少女と獣――。
どこからどう見ても、この世のものとは思われぬ程の美しさだった。
やがて獣は一鳴きすると、少女の頬をぺろりと舐めた。
その肉厚の舌に頬を舐められて少女の首が大きく傾ぐ。
そのまま襲われてしまいそうな風景に、堪らず身を乗り出していたのも事実だ。
そんな俺に一瞥(いちべつ)くれると、水しぶきと共に獣は姿を消した。
強く吹いた風も凪ぎ、圧倒的な存在感が消え、静寂が舞い戻る。
そんな中、置いていかれたかのように、カルヴィナは湖面を見つめて佇んでいた。
瞳はあの強烈な存在を追い求めて、他の何も求めていないのは明らかだ。
その事でより一層、胸に何かが加わる。
それに煽られるまま、命ずるような言葉を発していた。
「カルヴィナ!」
大声で名を呼ぶ。
カルヴィナの肩が跳ね上がり、我に返ったような目つきで、やっとこちらを見た。
「おまえはそんな格好で……冷えるだろう。こちらに来い」
カルヴィナは今やっと、自分があられもない格好なのだと思い出したらしく、弱々しく首を横に振りながら身を沈める。
「来い! 早く!」
「あ、の。すぐ、上がりますから、向こうへ行って」
下さい、と言いながら水に中に身体を沈ませてしまう。
「カルヴィナ」
気が付けば自分も湖に入っていた。