大地主と大魔女の娘

 私はとても浮かれていた。

 駄目だと諦めていた、祭り前の森に居られるのだ。

 心の底から安心した。

 これで約束を違えずに済む。

 そうも思った。

「彼」のことだ。

 私が姿を現さなければ、何をしでかしてくれるか分からない。

 誰にも相談できずに、時間だけが差し迫ってきている。

 その事に気を取られてしまい、ろくに食事も取れなくなってしまった。

 だからまた、地主様に叱られた。

 ますます、何かを口にする気も失せて、面倒だった。


 ミルアが落ち込む私に気が付かないはずも無く、それとなくどうしたのかと訊いて来た。

 だから答えた。

 ただ、祭り前の森の気配を感じたいだけだ。

 それなのに、地主様はお許し下さらない。

 魔女の娘にとって、どれほどそれが辛いか。

 それを訴えた所でまた一蹴(いっしゅう)されるのは目に見えるから、諦めただけだと。


 この時ばかりは、ミルアの強引さには感謝している。


 ――いつの間にか私の事を、巫女役に祀り上げていたことを許せるくらいに。


 それはそれで頭が痛い……。


 ともかく私は浮かれていた。

 これほど浮き足立ったのは、あの抜け出して港町で船を見かけた時以来だ。

 夜の深い闇も私を温かく包んでくれるから、怖くは無かった。


 むしろ、とても心地が良い。


 私の髪も瞳も闇と同じだ。


 このまま溶けて、一緒になってしまえたらどんなにいいだろう。


< 213 / 499 >

この作品をシェア

pagetop