大地主と大魔女の娘
私はとても浮かれていた。
駄目だと諦めていた、祭り前の森に居られるのだ。
心の底から安心した。
これで約束を違えずに済む。
そうも思った。
「彼」のことだ。
私が姿を現さなければ、何をしでかしてくれるか分からない。
誰にも相談できずに、時間だけが差し迫ってきている。
その事に気を取られてしまい、ろくに食事も取れなくなってしまった。
だからまた、地主様に叱られた。
ますます、何かを口にする気も失せて、面倒だった。
ミルアが落ち込む私に気が付かないはずも無く、それとなくどうしたのかと訊いて来た。
だから答えた。
ただ、祭り前の森の気配を感じたいだけだ。
それなのに、地主様はお許し下さらない。
魔女の娘にとって、どれほどそれが辛いか。
それを訴えた所でまた一蹴(いっしゅう)されるのは目に見えるから、諦めただけだと。
この時ばかりは、ミルアの強引さには感謝している。
――いつの間にか私の事を、巫女役に祀り上げていたことを許せるくらいに。
それはそれで頭が痛い……。
ともかく私は浮かれていた。
これほど浮き足立ったのは、あの抜け出して港町で船を見かけた時以来だ。
夜の深い闇も私を温かく包んでくれるから、怖くは無かった。
むしろ、とても心地が良い。
私の髪も瞳も闇と同じだ。
このまま溶けて、一緒になってしまえたらどんなにいいだろう。