大地主と大魔女の娘
彼の呟く古語に酔いしれながら、昔の事を思い出しているとふいに名を呼ばれた。
『夜露(カルヴィナ)』
体が跳ねた。
『当たりか!?』
嬉しそうに目を細め、鼻先で頬に擦り寄る彼に、首を横に振った。
それは地主様が付けた名だ。
そう呼ばれるうちに、私は縛られるようになったらしい。
カルヴィナ――。
夜露、と。
そう私を呼ぶ声を思い起こす。
その時だった。
側の彼の体が強張った。
一瞬、満月に雲が掛かったのだろう。
辺りが暗くなった。
獣の彼は森の中、闇の中を鋭く見つめている。
何が見えているのだろう。
恐ろしくなって、その背に身を寄せた。
それから彼は鋭く嘶(いなな)くと、身を沈めてしまった。
『おのれ。裏切ったのか、森の娘!』
何の事かと尋ねる暇も、違うと弁解する余地も無かった。