大地主と大魔女の娘
彼もゆっくりと片膝を折ってから、胸に手を当てて私を見た。
透明な空色の瞳は綺麗な青空みたいだ。
私の夜闇を映す瞳とはまるであべこべだ。
彼が頭を少し傾けると、一緒に灰色の髪も一すじ頬に流れる。
髪の色は曇り空のようだな、とぼんやりと思う。
「改めて、よろしくお願いします。リヒャエル・エルンデです。長ったらしいのでエルとでもお呼びください、『エイメリィ』様」
『エイメリィ』それは少しくだけた、お嬢さんという呼び掛けだ。
「お嬢さん、さま?」
「ええ」
『変なの。様、いりません』
思わず古語のまま返して、くすくす笑ってしまった。
「ええ、『エイメリィ』様」
なおも繰り返されて、おかしかった。
久しぶりに笑った気がする。
にこにこしてくれるエルさんは、とても優しそうだ。
「レオナル。貴方、負けてるわよ」
ジルナ様が振り返って地主様に声を掛けたが、意味がわからなかった。
ちらと見上げて、様子を窺うと地主様と目が合う。
彼は何も答えず黙って立っているだけだった。