大地主と大魔女の娘



 流石の地主様も湖底に引きずり込まれれば、危ういに決まっている。


 気を失ったずぶ濡れの地主様を抱きかかえて、一角の君を責めた。


『そんなに怒らなくても良いではないか』


 と、何やらもごもごと言い募る一角の君は、慌てたように角を一振りした。


 その途端、暖かな風が吹き、包まれたように感じた。


『その者もじきに目を覚ます。服も髪も乾かしてやった』


 だから何だというのだろう?


 どうあっても詫びようとしない一角の君を睨み、未だ目を覚まさない地主様を庇うように抱えていた。


『だから、なんだと言うのです?』


『うぬ……。そう、へそを曲げてくれるな』


『貴方様の方が格上でいらっしゃいます。ですから、私の機嫌を窺う必要などございませんでしょう?』


 常々、上から目線である彼にありのままを告げる。


 一角の君は立ち去る事も無く、ただ、その場で足踏みを繰り返していた。


『そのような事を言わないでおくれ』


『もう知りません。今後一切、貴方様とはお付き合い致しません』


 そして私との、不毛なやり取りを繰り返した。


 だから、さっさと立ち去ってくれれば良かったのに!

 
 
『そのような事を言わないでおくれ。そなたには、我が花嫁になってもらおうと思っているのだから』

『お断りします。もう二度と会いません。絶交です』

 そんなやり取りに疲れた頃に、一角の君が角を振り上げて、後ろ足だけで立ち上がった。

『ところで。その寝たふりをしている地主とやら。いい加減にせぬか!』


 一瞬、何の事か判断付かなかった。

 寝たふりをしていた?

 いつから?

 かっと頬と頭に血が上った。


 思わず、強く抱え込んでいた地主様の頭を、勢い良く振り落としていた。

 地主様はゆっくりと、身を起こした。

 その様子を見て安心したのと同時に、気がつけば拳を振り上げていた。

 もう、知りません!

 ぽかぽかと地主さまをぶってしまった。

 
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