大地主と大魔女の娘
大変な状況だというのに、そこはやはり地主様だと思われる一言だった。
落ち着いておられて、取り乱した所は一切見られない。
「やるしかないのだろうな。村長?」
「ええ。その面は、森の神の意思が宿ると言い伝えられております。ならばその意向に添いましょう」
村長さんはうやうやしく胸に手を当てて、地主様に頭を下げた。
それを見て、怒り出したのはジェスだ。
「親父! くそっ!」
マントの首元を弛めると、それを床に叩き付けた。
肩の部分の羽飾りが床にぶつかって、大きな音を立てる。
ちびちゃん達が怯える。
地主様はリュレイとキャレイを抱きかかえ、私はカールを抱きしめた。
「ジェス!」
乱暴にマントを脱ぎ捨てたジェスを、村長さんが叱った。
ジェスは落ち着こうと必死なのだろう。
大きく息を吐き出す。
やがて、諦めたようにのろのろとしゃがんで、投げつけたマントを拾い上げた。
それを地主様に押し付けるように差し出す。
「ん……。」
力なく呟くと、地主様に顎をしゃくってみせた。
地主様はゆっくりと二人を下ろすと、それを受け取って広げた。
風が巻き起こる。
その巻き起こした風ごとまとうかのように優雅に、地主様はマントを羽織っていた。
そこには何の違和感も無かった。
「森のカミサマだ」
少しだけ怯えたように、リュレイが呟いた。