大地主と大魔女の娘

 大変な状況だというのに、そこはやはり地主様だと思われる一言だった。

 落ち着いておられて、取り乱した所は一切見られない。

「やるしかないのだろうな。村長?」

「ええ。その面は、森の神の意思が宿ると言い伝えられております。ならばその意向に添いましょう」


 村長さんはうやうやしく胸に手を当てて、地主様に頭を下げた。

 それを見て、怒り出したのはジェスだ。

「親父! くそっ!」

 マントの首元を弛めると、それを床に叩き付けた。

 肩の部分の羽飾りが床にぶつかって、大きな音を立てる。

 ちびちゃん達が怯える。

 地主様はリュレイとキャレイを抱きかかえ、私はカールを抱きしめた。

「ジェス!」

 乱暴にマントを脱ぎ捨てたジェスを、村長さんが叱った。

 ジェスは落ち着こうと必死なのだろう。

 大きく息を吐き出す。


 やがて、諦めたようにのろのろとしゃがんで、投げつけたマントを拾い上げた。

 それを地主様に押し付けるように差し出す。

「ん……。」

 力なく呟くと、地主様に顎をしゃくってみせた。

 地主様はゆっくりと二人を下ろすと、それを受け取って広げた。

 風が巻き起こる。

 その巻き起こした風ごとまとうかのように優雅に、地主様はマントを羽織っていた。


 そこには何の違和感も無かった。


「森のカミサマだ」


 少しだけ怯えたように、リュレイが呟いた。

< 234 / 499 >

この作品をシェア

pagetop