大地主と大魔女の娘
「じゃあねえ、フルル。レオナルとお勤め頑張って、皆に祝福を配るんだね。頑張ったら君にもきっと、イイコトがあるよ」
金の髪をかき上げて、スレン様は格好付けた。多分。
流し目をくれられる。
緑の瞳が、イタズラっぽい光を湛えたように見えたと思ったら、覚えのある嫌な予感がした。
「まずは、ボクからの」
「え!?」
ん、と唇を寄せてこられた。
と、思ったら物凄い勢いで遠ざかっていた。
地主様とジェスがほぼ同時に、スレン様の肩に手を掛け、大きく引っ張ったからだ。
両の肩をぐいと引かれたスレン様の足元は、当然の事ながらふらついた。
「魔女っこは、ぼくのなの!! 勝手に触らないで」
私に抱きつきながら、スレン様を見上げる。
カールが頬っぺたを真っ赤にしながら、しがみついて庇ってくれた。
「えー? そうなの、フルル?」
「ええっと」
「スレン! 子供相手に何だ」
収まらない騒ぎの中、パン! パン! と小気味良い音が響いた。
村長さんだった。
両手を打って注目を集めたのだ。
「ジェスはお客人に村をご案内してくれ。ミルルーアは子供たちと一緒に戻るように。それから、まかないの方がどうなっているか、おかみ達に聞いておくれ」
ミルアはすぐさま、ジェスはしぶしぶ頷いた。
「エイメ。私たちは仕度に戻るよ。何、すぐに戻るよ。だが待っている間、地主様にお役目の説明をしておくれ」
「はい」
村長さんからはそう頼まれた。
頷いたが、どう説明すればいいのかと少し困った。
皆、口々に頑張ってねと言い残して、部屋から出て行く。
だが向けられる眼差しに含まれるものは、そればかりでは無い気がした。
居たたまれない。
何だろう。
たまらなく、恥ずかしい。
「カルヴィナ、叔父様をよろしくね。さ、スレン様。リヒャエル。お祭りの様子を見学させてもらいましょう」
「そうだね~。下々の祭りに参加するなんて滅多に無い機会だしね?」
「レオナル様、エイメリィ様、それではまた後ほど」
「エイメ。その、また後でね? さ、ちびちゃん達! 行くよ」
「「またね、魔女っこ~」」
「魔女っこ、また後でね」
そんな中、一番最後で立ち止まったのはジェスだった。
「エイメ」
「今年はやぐらに掛ける梯子は、階段にしたんだ」
「うん」
「それは俺が、俺たちが作った。エイメがやぐらに上がり易いようにと」
「……ありがとう。大変だったでしょう?」
「いや。どうって事は無い。ただ――。」
ジェスも皆も私が巫女役をやると知らされていたのだ、と今更ながら思う。
梯子であっては、恐らくどころか確実に落下する自信がある。
「ただ?」
「ただ……。俺がカミサマ役だったんだがな。残念だ」
「……。」
どう答えたら、言葉をかけたらいいのか解らない。
困って見上げると、真剣な眼差しが覗き込んでくる。
「せめて、祭りでは一緒に踊ってはくれないか?」
「えっと」
「嫌か?」
「あのね。嫌って言うより、その」
「嫌じゃない?」
「踊れないから。その、私の足だと」
ジェスが首を左右に振る。
「そんな事は無い。いや、構わない」
「踊れないよ?」
なおも念を押すように言ったのだが、ジェスは譲らなかった。
「エイメ。待っている。待っているから。巫女役が終わったら、やぐらから降りてきてくれ」
「うん?」
「待っているから」
そう幾度も言い残してから、皆の後に続いて行った。