大地主と大魔女の娘
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とうとう、地主様と二人きりになってしまった。
「カルヴィナ」
ジェスが扉を閉めたのと同時に、名を呼ばれる。
地主様は椅子を引いて、私の真横に腰を下ろした。
あまりに自然に寄り添うようにされるから、警戒する間も無かった。
「どうした訳だろうな。外れなくなった。大魔女の娘の意見はあるか?」
「お困りでしょうか?」
「少しな」
いくらか躊躇った後、地主様はぽつりと呟いた。
先程と同じ、落ち着き払ったものだ。
だが心なしか、しおれて聞こえもする。
「失礼します」
そっと仮面の下から両手を差し込んでみる。
地主様の頬に触れる。
そっと。
少しざらついている。
今日はまだ髭を剃られていなかったのだ、と思う。
やはり仮面はビクともしない。
仮面越しの眼差しは、遠いようでいて間近に思えた。
彼の視線が痛いったらない。
そっと仮面の頭の部分に触れてみる。
あたたかい。
あたたかい?
この陽射しのせいでなのか。
それとも地主様の体温がうつったせいなのか。
獣の毛並を紋様化して彫られた部分は、風をまとう様を表している。
そう。
彼の……森のカミサマと崇められる彼の名は『疾風まとう暗闇』という。
そっと、その名を呼んでみる。
『シュディマライ・ヤ・エルマ』
巫女役だけが許される、その呼び名を。