大地主と大魔女の娘
広場の一角に、席を用意してもらった。
心地良く風が吹き抜ける。
楽しげな笑い声と太鼓の音が交差する、にぎやかな空気に自然と浮き足立つ。
出番までもう少し。
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「ええと。お酒は……。」
言いよどむ。
「こうやって神様や巫女様に祝いの酒を振舞って、おいしく飲んでもらうのが縁起がいいとされているんだ」
「そう、なの?」
今までお祭りに参加した事が無かったから、知らなかった。
「そうそう。今年も無事に収穫を終えることが出来ました。これは感謝の気持ちです。どうぞお受け下さい」
少し向こうでは神様役の地主様も席を設けられ、皆に囲まれている。
着飾ったお祭り衣装の女の子たちが、順番に注いでいるのはこちらと同じものなのだろう。
そう納得してから、視線を戻すと人懐っこい笑みがあった。
杯を受け取りながら、彼の名前を思い出す。
確か名前はロゥド。
ジェス達と一緒にいた若者。
彼の陽気な人柄を表すような赤い髪に、真っ青な瞳の青年。
ろくに口も聞いたことの無い彼への認識はそこまでだ。
他にも三人の若者たち。
地主様ほど大きな背丈ではないが、こうやって四人もの男の人に四方を囲まれては、縮こまるしかなかった。
皆、私の手元を見守っている。
皆から労われている証の果実酒。
それなら、受けない訳にはいかないだろう。
そもそも、こんな席で断るという事が自分には許されるのだろうか?
答えは否、だ。
だったら飲み干すしか他に道は無い。
そろそろと口を付けた。
お酒の味は濃かった。
これは水で薄めるくらいで丁度良いのではなかろうか。
しつこい甘さが咽喉に絡みつく。
思わず咽る。
何故かそこで笑いの波が広がった。
「さあさあ。どんどん飲んでおくれ。祝いの酒だからな。巫女様にぴったりだ」
なおもと促がす口調から、とてもじゃないが残せる雰囲気ではないと思ったら、哀しくなった。
やぐらを作っていてくれた若者たちに囲まれ、その期待に満ちた眼差しに晒されて追いつめらる。
ほんの少しだ。
杯に一杯。
これくらい、受けるのが礼儀だろう。