大地主と大魔女の娘
急に強風に煽られて、ベールが大きく後ろに攫われた。
髪飾りという重みで固定されていても、少しずれるほどだったから、とても強い風が吹いた。
何事だろうかと、吹き付けてくる風のほうへと視線を上げた。
視界が陰りを捉える。
陽射しが雲に遮られた時みたいに。
真っ黒い衣装に身を包んだ、仮面の姿をとらえる。
すっかり上がった太陽を、その背で封じ込めたかのようだ。
いつかも似たような事があった気がする。
「地主さま」
というよりも、風をまとい従えたかのような風格に、森の主さまの名前が相応しい気がした。
『シュディマライ・ヤ・エルマ』
皆、その異様なまでの威圧感に圧されている様だった。
存在自体もさながら、意思持って動く闇のよう。
私の知っている闇は夜のあの静かで、包み込むような闇だ。
それとはまた違う、静かな……。
夜の深い湖よりも深く、うかがい知れない存在のような気がした。
これに近い気配は森の彼こと、オークの巨樹しか思い当たらない。
(どうしよう。近寄り難い。こういうのを何というのだったかしら?)
――神々しい。
そう思い当たったら、寒気がした。
彼自体が風の影響を受けていないのは何事か。
地主様のまとうマントはそよともしていない。
ただ、彼が歩みを進めるたびに私のベールが風にさらわれる。
確かに今、地主様は疾風まとう暗闇と表現するに相応しい。
気圧される。
その圧倒的な存在感に、ただ、ただ、目が離せない。