大地主と大魔女の娘

 何となく悔しくて、素直に頷く事ができなかった。


『おまえは酒が飲みたいのか?』

『受けるのが礼儀だと思っています』

『無理に受ける必要は無い。わかったな?』


 せっかくお祭りに参加させてもらっているのに。

 少しでも何でも皆の期待に応えたいだけなのに。

 地主様は横暴だ!


 そんな風に思ったら悔しくて、気が付いたら反抗していた。


『イヤ』

『何?』


『じ、地主様の言う事なんか、ききません』


『そうか。なら、俺の前でなら酒を飲んでもいいぞ』

『……。』

 あっさりと地主様はそう答えながら、私に杯を戻した。

 ほんの少しだけお酒が残っている。

 強がってみたものの、杯を受け取った時に震えてしまった。

 お酒を飲むと少し眠くなる。

 地主様の前で、私は何度か眠りについた事がある。

 それなのに。

 それは何だか、とてつもなく怖い気がした。

 
 『男の前で酒に飲まれると、どれほど意に沿わない事になるか。何となくだが予想は付くな?』


 黙り込み、杯を見詰める。

 そんな私と目線を合わせると、地主様は諭すように言った。

 何となくは解るけれど、はっきりとは解らない。

『は、い。でも、地主様の前ならいいのですね?』


 仮面越しだが、地主様が目を瞠ったのがわかる。

 覗き込むようにして、答えを待つ。

 正直、自分で言っておいて何を言っているのか、よく解らなくなった。


『カルヴィナ。頼むからそう煽ってくれるな。俺とて……保障はできない』


『保障?』


 何の事かと彼を見やると、地主様の手の甲が頬を撫でた。


 そのまま、ぺちぺちと軽く叩かれる。


『余計な事を言った。忘れてくれ』


 ・。・:*:・。・:*:・。・*:・。・:*:・。・:*:・。


 彼の吐息が触れるほど近くで呟かれる。


 そこでやっと、昨晩の出来事をありありと思い出した。


 我ながらどうかしている。

 一気に頬が熱くなった。


『もうじき出番だな。それまでにもう一度、打ち合わせておこう』


 気を取り直したように、地主様が仰った。

 いつも通りにされる地主様が、何だか恨めしい。


(地主様は、慣れておられるのだ、きっと。色々と……。)


 だから。

 私だけが意識したりしたら、馬鹿みたいだ。


 そう思ったら、あいまいに頷くのが精一杯だった。


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