大地主と大魔女の娘

 怒りが頂点に達する。

 追い払い、荒々しい心のままカルヴィナに向き合う。

 自分でも宥めようの無い怒りを抱えたまま。

 ところがカルヴィナときたら、俺を横暴だとなじってきた。


 その割に語尾は震え、視線は惑っていた。

 それは、強がりなだけだというのは言われずとも解る。

 照れているだけだとも。


 言葉を交わし、その頬に触れる。

 気がつけば、怒りはすっかり収まっていた。


 獣の欲求を満たすのならば、そんな指先程度の触れ合いで鎮まるはずも無いと思われた。


 必死で指先までで留めた想い。

 滑らかな感触が、昨晩抱き寄せた曲線をありありと蘇らせる。


 だからこそ、慌てて触れるのを止めたのだ。


 それでも、心を荒ませていた嵐はあっさりと凪いでいた。


 たちまち鎮まってしまった獣は、娘の清純さに平伏したに他ならない。


『お慕いしております』


 という台詞を聞きたくて幾度も言わせた。

 耳にも心にも心地良い。


 祭りの間、巫女役の娘の心は森の神にのみ捧げられるのだ。


 その間は永遠のひと時。


 ああ。

 まただ、と思う。


 これは俺の感情だけではない。

 この仮面の意思が持つ、記憶もあるのだ。


 この仮面を代々付けてきた者達の記憶も含めて。

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