大地主と大魔女の娘

 おばあちゃん。


 おばあちゃんも巫女役をやった事があるんだって教えてくれた。

 こっそりと。


 おばあちゃんが、娘だった時。


 誰が神様役だったの?


 そう尋ねたら、森の彼だと教えてくれた。

 こっそりと耳打ちして。


 どんなヒトだったのか尋ねたら、黒い髪に黒い瞳の背の高いヒトだったと教えてくれた。

 私と一緒だ!


 そんな風に言われたら、期待だって一気に高まる。

 早く続きをとねだる私に、しぃっと言いながら声を落とすように言われる。


 どんな小さな声だって、風にさらわれてしまうものだ。

 だから、森の人たちに聞こえてしまう事が無いように用心しなければならない。


 そう言っておばあちゃんは、香草を燃やしながら煙を焚いて呪文を唱えた。


『この場に吹く風はこの場に留まる風』


 そう唱え終わったら、おばあちゃんのお話の始まりだ。


 儀式がまた特別な感じがして、否が応でも期待感が高まる。わくわくした。

 いつもおばあちゃんにねだって聞いた。

 お祭りの晩に。


 蝋燭の明かりに灯されながら、お酒を少しだけ許される。

 そうやって、ちみちみ飲みながら聞く物語は特別だった。


 おばあちゃんが巫女の役をやり、私が神様の役をやった。

 そんな時のおばあちゃんは、とても楽しそうで可愛らしく見えた。


 
< 245 / 499 >

この作品をシェア

pagetop