大地主と大魔女の娘
シ ュ デ ィ マ ラ イ ・ ヤ ・ エ ル マ !
その掛け声を合図に、子供たちの群れの中へと突き進んだ。
呼ばれた名前に相応しい動きを意識して。
「きゃああ」
「わるもの来たー!」
「こわいぃ!!」
歓声を上げながら、子供たちが散り散りに逃げて行く。
中には本気で泣き叫んでいる幼児もいた。
後々、心の傷にならなければ良いが。
そのような心配もちらと掠めたが、役目は役目だ。
ひとしきり、追い回すように子供たちの輪の中でマントを翻す。
逃げ惑う子供たちの中で、こちらを見据えて微動だにしない子供が居た。
カールだ。
双子たちの兄なだけあって、随分としっかりしている。
幼いながらも、カルヴィナを真摯に思いやっている男だ。
だから俺や村長のせがれには素っ気無い。
挑むような眼差しで、俺を睨みつけてくる。
例え強がりが含まれていようとも、やはりこの子供は勇ましい。
カールの前に歩み寄り、立つ。
『我は森に住まう獣。それを――疾風まとう暗闇などと呼ぶのはオマエか?』
「獣め! 真っ黒だから暗闇と呼ばれるんだ!」
古語の台詞はカールには難しい。
恐らく上手く理解できていなかっただろう。
それでも受け答えは、そうそう的外れでも無かった。
『それでは今日の生け贄はオマエにしてくれよう』
カールを抱き上げようと引き寄せる。
「放せ――!! おまえの好きになんか、させるもんか――!」
カールが足をバタつかせて暴れる。
それを抱き込み、抱え上げてしまうといくらか大人しくなった。
そのままマントの中に隠す。
闇に包みこんでしまうかのように。
女たちには背を向ける格好で三歩踏み出せば、カルヴィナの出番だ。