大地主と大魔女の娘

そこには、大きな籠がふたつ用意されていた。

 ひとつは乾燥させたリィユーダの花。

 五つの花弁が可愛らしく、花ごと散るので形が壊れにくいし、何よりその効能が素晴らしい。

 この香りをまとえば安眠をもたらし、病も遠ざけると言われている。

 それともうひとつは、クルミを焼き込んだお菓子。

 きれいにひとつひとつ、布でくるんである。

 布はみんなで持ち寄ったもので、色とりどりそれぞれ味のある出来栄えだ。

 壊れてしまってもいいように、お菓子は大きめの塊りで焼かれてあるのだそうだ。

 おかみさん達がそう、教えてくれた。

 崩れてもちょうど一口分になるように、だそうだ。抜かりがない。

 本当はクルミだけをまいていたそうだが、いつのまにかお菓子に変化したらしい。

 おばあちゃんの頃はすでにお菓子だったそうだから、ずいぶん前にそうなったのだと思う。


 私はお菓子の方が嬉しい。クルミだって嬉しかろう。


 側には手篭が用意されていた。

 そこに私はお菓子を、地主様はお花をつめる。

 籠は結構大きくて、樽一つ分くらいはある。

 これは頑張らないといけない。


 地主様と顔を見合わせ、無言のまま頷きあった。


 せっせと詰める。

 やぐらから顔を出すと、既にみんな待っていた。

 まずは小さい子達から、やぐらのすぐ近くで待っている。

「魔女っこ、魔女っこ、お菓子を早く、ちょうだいな!」


 リュレイとキャレイが大きな声で、歌うように催促している。


 それにつられて、他の子達も同じように言い出した。


 小さな体からあんなにも大きな声が出るなんて、すごい。


 感心してしまう。



「違うだろう、森の神様と女神様だろう!」


 そう言い直しているのは、少しお兄さんの子だ。


「そうだったね」


「今日、魔女っ子は森の女神様。地主様は、森の神様なのだったね」

「だったら」

「せぇの!」


『森の神様、女神様。お菓子とお花をください、ください、くださいな!!』



 その子供たちの掛け声を合図に、思い切ってお菓子を降らせた。



 
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