大地主と大魔女の娘
カルヴィナは、実に楽しそうだった。
朝方の不機嫌さはすっかり収まったようだ。
今は目の前の物珍しさに夢中で、昨日のことは一旦忘れているらしい。
そのままこの楽しい記憶に上乗せされて、不愉快な記憶は封じてくれとも祈ってみる。
正直、ぐずられるのは苦手だ。
……無理やり言うことを聞かせたくなる。
そうなったらまた、ややこしい事になる。間違いなく。
それは避けたい。
なんにせよ、生き生きしているカルヴィナはいい。
その横顔を盗み見ながら、花を舞い降らせていた。
ふと、視界の端に不愉快な人影が掠めた。
それは下からカルヴィナを見つめている。
カルヴィナは気がつかない。
奴の視線から遮るべく、カルヴィナに寄り添うようにしていた。
やがて奴は両手をこちらに向けた。
こちらにも菓子をと催促するかのように。
カルヴィナも気がついて、奴こと村長のせがれの方を向いた。
それとほぼ同時に、カルヴィナから籠を取り上げていた。
その代わりに、すかさず花籠を押しつけてしまう。
菓子包みをひとつ掴むと、勢い付けて奴へと振りかぶった。
その額の当たりを目掛けたのだが、狙ったように衝突はしなかった。
奴が受け止めたからだ。
ちっと心の中で舌打ちする。
奴はこちらを恨めしそうに見上げて来た。
村長のせがれには、森の神から直々に祝福をさずけてやったのだ。
ありがたいと思え。
菓子を手にした者は、後ろの者に場所を譲り渡してやるのが礼儀だ。
さっさと場所を空けてやるがいい。
やぐらの高みから見下ろす。
村長のせがれは祝福を望む人の波に押しやられ、やぐらからは遠ざかって行った。
だが、その視線は俺ではなくカルヴィナへと向けられていた。
すがるように。
あいつは諦めていない。
そう思わせるに充分な執着を感じ取る。油断ならない。
当のカルヴィナは気がついてはいないようだが。
カルヴィナはその様子を不思議そうに見守っていたが、何も尋ねてはこなかった。
俺と村長のせがれを交互に眺めただけだ。
それよりも手篭の中の花に集中しだした。
……それはそれでどうかと思った。