大地主と大魔女の娘

『少し、休んでから降りるか』


 そう提案するとカルヴィナは頷き、腰を下ろした。

 くたびれたのだろう。当然だ。

『お疲れになりましたか? どうぞ飲み物を』


 やぐらは快適に設えられていた。


 直に腰下ろすのに充分な毛織物がひかれ、揃いのクッションまであった。


 森の神を労うためにか、酒も用意してある。


 それを用意したのが、カルヴィナとのひとときを楽しみにしていた奴だろう。


 危なかった。

 役を引き受けるまで、予想もしていなかった。

 村長のせがれは自分が森の神の役をやるからこその、余裕ぶりだったのだと気がつく。


 ともあれ、ひと仕事終えた気分は清清しい。


 カルヴィナが注いでくれた杯を受け取った。


 口にすると甘い香りがふわりと鼻を通り、少し酸味のある甘さが舌に残る。

 俺にしてみれば甘すぎる酒だが、娘には口当たりがよかろう。


 それは気遣いと見せかけて、男のよからぬ策にしか俺には思えない。

 忌々しく思い、ため息と共に吐き出した。

『俺はあのオークの木の気分を味わった。俺に実を降らせたあの気持ちがよく解った』


 許し難い気持ちで、カルヴィナに近づく男を攻撃する。

 撃退するべく、実を振らせるしかなかった。

 思わずもらした感想に、カルヴィナの表情が明るくなった。


 なんだ?


 何がお気に召したのか。


『私も、木の気持ちが少し味わえた気がします! クリとかクルミとか。食べられる実がなる木の気持ち』


 うっとりとそう呟くカルヴィナに尋ねる。


『食べられる実がなるのがいい、のか?』


『はい。私自身、いつも助けてもらいましたから。そうなりたいと思います』



 カルヴィナは力一杯頷いて答える。


 森での生活は厳しいものだ。


 ましてや男手もない、非力なカルヴィナと大魔女との生活だ。


 二人は知恵を出し合いながら、その日その日を暮らしていたに違いない。


 食うに事欠く事もあったのだろう。


 まだまだ、丸みからは遠い華奢な肢体。


 

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